
介護の電子申請届出システム、GビズIDの準備と使い方を一緒に整理
「変更届、今度から窓口じゃなくてシステムで出してくださいって言われたんですけど」。指定権者からの案内文を見て、手が止まったことはありませんか。
これまでは、印刷して、押印して、封筒に入れて出せば済んでいた手続きです。それが画面の中に移ると聞いて、まず思うのは「今の期限に間に合うのか」ということだと思います。新しい操作を覚える時間なんて、月末の請求が終わったあとにしか取れません。
ただ、実際にやってみた事業所の話を聞いていると、つまずくところはほとんど決まっています。システムの操作ではなく、その手前にある「GビズID」の準備です。ここだけ早めに動いておけば、あとは思ったより素直に進みます。
今日は、そのGビズIDの取り方から、実際に届出を出すまでの流れを、順番に一緒に整理していきます。
結論:先に手をつけるのはこの3つです。①GビズIDプライムのアカウントを取る(日数がかかるのはここだけ)/②自分の事業所の指定権者が、どの手続きをシステムで受け付けているかを確認する/③紙で作っていた添付書類を、電子ファイルにする段取りを決める。①は代表者名義の手続きなので、事務だけでは完結しません。今日いちばん価値がある一手は、代表者に「これ、お願いできますか」と声をかけることです。なお、電子申請への移行の時期・対象手続き・独自の追加書類は指定権者(都道府県・市町村)ごとに案内が異なります。最終的な確認は、必ず自事業所の指定権者の最新の案内でお願いします。
何が起きているか — 様式がバラバラだった問題の、続きの話
まず、なぜ電子申請の話が出てきたのかを押さえておきましょう。ここが分かると、案内文の読み方が変わります。
指定権者とは、その事業所の指定(介護保険サービスを提供してよい、という許可)を出している行政のことです。多くのサービスは都道府県ですが、地域密着型サービスや居宅介護支援などは市町村が指定権者になります。変更届や加算の届出の出し先も、原則としてこの指定権者です。
長いあいだ、介護事業所の指定申請や変更届の様式は、自治体ごとに少しずつ違っていました。同じ「勤務形態一覧表」でも、A市とB県で欄の並びが違う。添付書類の指定も違う。複数の市町村にまたがって事業所を持つ法人ほど、その差に振り回されてきたと思います。
そこで進められてきたのが、様式と添付書類の標準化、そしてその先にある電子申請届出システムです。
電子申請届出システムとは、介護事業所の指定申請・変更届・加算に関する届出などを、全国共通の画面からオンラインで提出できるしくみです。厚生労働省が用意しているもので、事業所は自治体ごとの様式を探し回らずに、同じ画面から手続きできるようになります。
制度としては、指定申請等の手続きを、原則としてこのシステムで受け付けていく方向で進んできました。2026年度(令和8年度)は、その移行が本格化する節目として案内されています。ただし、実際の運用状況は自治体によって幅があります。すでにほぼすべての手続きをシステムで受け付けているところもあれば、当面は一部の届出から始めているところもあります。
つまり、あなたの手元に届いた案内文は、あなたの事業所が遅れているという話ではなく、全国的な切り替えの順番が回ってきたという話です。ここは、まず安心してください。

最初の関門は、システムではなくGビズID
ここが今日いちばんお伝えしたいところです。
電子申請届出システムにログインするには、GビズIDというアカウントが要ります。これは介護専用のものではなく、国の行政手続き全般で使われる共通のIDです。社会保険の手続きや補助金の申請で、すでに使っている法人もあるかもしれません。
そして、このGビズIDには種類があります。
| 種類 | 誰の名義か | 電子申請届出システムで使えるか |
|---|---|---|
| gBizIDプライム | 法人代表者(または個人事業主) | 使える。これが土台になる |
| gBizIDメンバー | プライムの持ち主が発行する、従業員用 | 使える(プライムから権限を付けて発行) |
| gBizIDエントリー | 誰でもすぐ作れる簡易版 | 使えない手続きがある |
押さえておきたいのは、エントリーでは足りないということです。まずプライムを取り、そのうえで実務を担当する職員にメンバーのアカウントを配る。この形が基本になります。
日数がかかるのは、ここだけ
プライムの取得は、代表者名義の手続きです。事務担当者が代わりに全部やる、というわけにはいきません。
取得のしかたは大きく2つあります。
- オンラインで申請する:代表者のマイナンバーカードとスマートフォンを使って本人確認をする方法です。書類の郵送がないぶん、審査が早く進みます。急ぐならこちらです。
- 書類を郵送して申請する:申請書に代表者印を押し、印鑑証明書などを添えて送る方法です。郵送と審査の往復があるので、2週間ほどはみておくと安心です。
どちらの方法も、代表者に動いてもらう時間が要ります。だから、届出の期限が迫ってからでは間に合わないことがある。ここが唯一、時間で詰む可能性のあるポイントです。
逆に言えば、プライムさえ手元にあれば、あとはいつでも動けます。まだ電子申請の案内が来ていない事業所でも、先に取っておいて損はありません。
アカウントを「人」に預けない
もうひとつ、あとから効いてくる注意点です。
メンバーアカウントを、担当者ひとりの個人メールアドレスだけで作っていると、その方が異動・退職したときにアカウントが宙に浮きます。IDやパスワードが分からなくなって、届出の期限直前に慌てる——これは電子化でいちばん起きやすいトラブルです。
- アカウントの一覧(誰がどの権限を持っているか)を、紙かファイルで1枚残しておく
- できれば2人以上が操作できる状態にしておく
- 退職・異動のときは、アカウントの停止・付け替えを引き継ぎの項目に入れておく
派手さのない準備ですが、これをやっておいた事業所は、担当者が代わっても止まりません。
何が出せるのか
システムで扱える手続きは、おおむね次のようなものです。
- 指定申請(新規に指定を受けるとき)
- 指定更新申請(6年ごとの更新)
- 変更届出(管理者の交代、事業所の名称・所在地の変更、運営規程の変更など)
- 休止・廃止・再開の届出
- 加算に関する届出(介護給付費算定に係る体制等に関する届出。いわゆる体制届)
日々の事務でいちばん出番が多いのは、変更届と体制届だと思います。とくに体制届は、加算を取り始める月の前月までに出す必要があるものが多く、期限がはっきりしています(→ 加算の体制届、出し方と提出期限を落ち着いて確認する)。
ただし、どの手続きをシステムで受け付けるかは指定権者ごとに違います。「変更届はシステム、体制届は当面これまでどおり」といった段階的な運用をしている自治体もあります。ここは思い込みで判断せず、指定権者のホームページの案内を一度そのまま読んでおくのが確実です。
なお、介護報酬そのものの請求(国保連への伝送)は、このシステムとはまったく別のしくみです。混同しやすいところですが、請求はこれまでどおり請求ソフトと国保連です。
提出までの流れ
実際の操作は、次の順番で進みます。
1. GビズIDでログインする
システムの画面から、GビズIDのアカウントでログインします。ID・パスワードのほかに、スマートフォンなどへのワンタイムパスワードによる確認が入ります。代表者の携帯にだけ届く設定になっていないか、最初に確かめておきましょう。
2. 自分の事業所をひもづける
初回だけ必要な作業です。事業所番号(10桁)などを使って自事業所を検索し、アカウントにひもづけます。複数の事業所を運営している法人なら、事業所の数だけこの作業をします。
ここで事業所が見つからないときは、番号の入力ミスか、そもそもその指定権者がまだシステムでの受付を始めていないか、のどちらかであることが多いです。何度も試す前に、案内文をもう一度見てみてください。
3. 手続きを選んで、入力する
出したい手続き(変更届、体制届など)を選んで、画面の項目を埋めていきます。標準様式がベースになっているので、これまで紙で書いていた項目とおおむね対応しています。
入力の途中で保存して中断できることが多いので、分からない項目が出てきたら、そこで無理に進めず一度止めるのがおすすめです。埋め方を間違えたまま送ってしまうより、翌日に確認してから出したほうが、結局は早く終わります。
4. 添付書類をアップロードする
ここが、紙のときといちばん感覚が変わるところです。
勤務形態一覧表、平面図、資格証の写し、運営規程、雇用契約書の写し——これまでコピー機で複写していたものを、電子ファイル(PDFやExcel)にして添付します。
- ファイル名は、中身が分かる名前にする。「scan001.pdf」ではなく「勤務形態一覧表_2026年8月.pdf」のように。審査する側も探しやすくなります
- 1ファイルの容量に上限がある場合があります。スキャンの解像度を上げすぎると重くなるので、文字が読める範囲で軽く取り込みます
- 資格証など、原本が紙のものはスキャンが要ります。数が多いと地味に時間を食うので、普段から資格証をまとめてPDF化しておくと、次回がぐっと楽になります(→ 勤務形態一覧表の作り方、提出前に押さえる順番を一緒に整理)
5. 送信して、控えを残す
送信すると、受付の状態が画面で確認できるようになります。不備があるときは、補正の依頼も同じ画面に返ってきます。窓口で「ここ直してください」と言われていたやりとりが、画面上に移るイメージです。
そして、必ずやっておきたいのが控えを残すことです。
紙の届出なら、受付印を押した控えが手元に残りました。電子の場合、意識して残さないと、あとで「何をいつ出したか」が自分の手元から消えます。運営指導のときに「この変更、いつ届け出ましたか」と聞かれて答えられるように、提出した内容の画面を印刷またはPDFで保存し、受付番号と提出日をメモして、これまでどおりのファイルに綴じておく。これだけで十分です(→ 介護の書類、保存年限は何年?迷わないファイリングを一緒に整理)。
紙のときと、何が変わるか
| これまで(紙) | 電子申請 | |
|---|---|---|
| 提出のしかた | 窓口持参・郵送 | 画面から送信(時間帯を選ばない) |
| 押印 | 代表者印などが必要なことが多い | アカウントの認証が押印の代わりになることが多い |
| 添付書類 | 紙のコピー | 電子ファイル(PDF・Excel等) |
| 控え | 受付印のある控え | 自分で保存しないと残らない |
| 不備の連絡 | 電話・窓口 | 画面上の補正依頼 |
| 様式 | 自治体ごとに違う | 標準様式がベース |
いちばん助かるのは、窓口の開いている時間に縛られないことだと思います。夕方の送迎が終わってから出す、という進め方ができます。
いちばん気をつけたいのは、控えが自動では残らないことです。ここだけは、これまでより一手間増えたと思ってください。
つまずきやすいところ
現場でよく聞くのは、この6つです。
- GビズIDの取得を後回しにしてしまう:システムの操作を調べるより先に、まず代表者に相談する。日数がかかるのはここだけです
- エントリーで足りると思っていた:必要なのはプライム(と、そこから発行するメンバー)です。作り直しになると、また日数がかかります
- ワンタイムパスワードが代表者の携帯にしか届かない:実務を担当する職員がメンバーアカウントを持っていれば解決します。ログインのたびに代表者を呼ぶ運用は続きません
- 提出の控えを残していない:運営指導で「届出の控えを見せてください」と言われたときに困ります。送信直後に保存する、を手順に組み込みます(→ 標準確認項目・標準確認文書を使って、運営指導の準備を軽くする)
- 自治体独自の追加書類を見落とす:標準様式のほかに、その自治体だけが求める書類が残っていることがあります。案内文の「添付書類一覧」を必ず最後まで読みます
- 期限当日に初めて操作する:入力途中で分からない項目が出ると、そこで止まります。期限の3日前までに一度画面を開いておくと、慌てずにすみます(→ 変更届の提出期限、忘れないための小さな仕組みを一緒に)
どれも、知らないと引っかかるけれど、一度知っていれば防げるものばかりです。うまくいかなかった日があったとしても、それはあなたの理解不足ではなく、移行期には誰もが一度は通る道です。
明日やること
全部をいっぺんに整える必要はありません。明日は、この4つで十分です。
- 指定権者のホームページで、電子申請の案内ページを1回だけ開く。「どの手続きが対象か」「いつからか」の2点だけ見ればまず大丈夫です
- 法人でGビズIDプライムをすでに持っているか、代表者か経理に確認する。持っていれば、いちばん重い準備は終わっています
- 持っていなければ、代表者に取得をお願いする。「マイナンバーカードとスマホがあればオンラインで早く取れます」と一言添えると、動いてもらいやすくなります
- 次に出す予定の届出(変更届・体制届など)の期限をカレンダーに書く。その3日前に「システムを一度開く」と書き足しておきます
1と2まで進めば、その日はもう合格点です。3と4は来週の自分に回しましょう。
確認チェックリスト
- 自事業所の指定権者(都道府県か市町村か)を把握しているか
- 指定権者が、どの手続きをいつからシステムで受け付けるかを確認したか
- 法人としてgBizIDプライムを取得しているか(未取得なら、取得を代表者に依頼したか)
- 実務担当者用のgBizIDメンバーアカウントを発行しているか
- 2人以上がシステムを操作できる状態になっているか
- ワンタイムパスワードの受け取り先が、実務担当者にも届く設定になっているか
- アカウントの一覧(誰がどの権限を持つか)を書き出して保管しているか
- 退職・異動時のアカウント停止・付け替えを、引き継ぎの項目に入れているか
- システム上で自事業所のひもづけが済んでいるか(複数事業所なら全事業所分)
- 添付書類を電子ファイル化する段取り(スキャン・ファイル名のルール)を決めたか
- 職員の資格証の写しをPDFでまとめて保管しているか
- 提出後に控え(画面の保存・受付番号・提出日)を残す手順を決めたか
- 標準様式のほかに、自治体独自の追加書類がないか案内文で確認したか
- 次に出す届出の期限と、その3日前の下見をカレンダーに入れたか
- 介護報酬の請求(国保連)は別のしくみであることを、チーム内で共有できているか
よければ、こちらも
- 期限の管理は 変更届の提出期限、忘れないための小さな仕組みを一緒に と 加算の体制届、出し方と提出期限を落ち着いて確認する にまとめてあります。
- 更新のタイミングで使うなら 指定の更新申請、6年に一度の流れと書類の準備を一緒に整理、運営規程の作り方と変更届の出し方を、順番にやさしく をどうぞ。
- 管理者が代わるときは 管理者とサービス提供責任者の配置基準、迷う点を一緒に整理 が近い話です。
- 制度の動きの追い方は 介護報酬改定の情報はどこで確認する?あわてない一次情報の追い方 と 介護報酬改定の準備、スケジュールから逆算して進めるコツ にあります。
- 書類の残し方は 介護の書類、保存年限は何年?迷わないファイリングを一緒に整理、指導への備えは 標準確認項目・標準確認文書を使って、運営指導の準備を軽くする をあわせて。

電子申請への切り替えは、正直なところ、最初の1回がいちばん重い作業です。二度目からは、同じ画面を開いて同じ項目を埋めるだけになります。覚え直しの負担は、この一度きりだと思ってください。
そして、この移行でいちばん割を食っているのは、たぶん事務です。ケアの現場は今日も変わらず動いていて、その裏側で誰かが新しい画面と格闘している。うまくいっているときは、誰にも気づかれません。
でも、あなたが今日アカウントの相談を持ちかけたおかげで、来月の届出は期限に間に合います。加算は算定できて、職員の処遇に回ります。制度の入口を開けているのは、その一本の相談です。
まだ何も準備できていなくても、大丈夫です。今日「まずGビズIDから」と順番を1つ決められたなら、それだけでもう、いちばん大きな落とし穴はまたげています。