
介護の書類、保存年限は何年?迷わないファイリングを一緒に整理
書庫の扉を開けたら、もう空きがない。段ボールに詰めた古いファイルが床にも積み上がっていて、「そろそろ捨てたいけど、捨てていいのかな」と手が止まる。介護事業所の事務をしていると、一年に一度くらいこの場面が来ますよね。
やっかいなのは、書類ごとに「何年残すか」を決めている法律が違うことです。介護保険の書類、職員の書類、お金の書類——それぞれ別のものさしで年限が決まっているので、一律に「◯年で捨てる」と決められません。だから毎回迷うし、迷った結果「とりあえず全部残す」で書庫があふれていく。
今日は、その分かれ方を3つに整理して、明日から迷わず仕分けできる形にしていきましょう。
結論:押さえたいのは3つです。①介護保険のサービス記録は、指定基準(省令)では「その完結の日から2年間」が原則。ただし多くの自治体は条例で5年としているので、自分の事業所の指定権者の条例が最終的な答えになります。②職員・お金の書類は別の法律(労働基準法・法人税法など)で年限が決まっていて、介護保険より長いものがあります。③迷ったら長いほうの年限に合わせるのが安全。ただし個人情報は「不要になったら消す」のが原則なので、永久保存も正解ではありません。年限・条例の内容は改正で変わるため、最終確認は指定権者の条例と最新の通知でお願いします。
「2年」と「5年」、どちらも見かけるのはなぜ?
調べていると、あるサイトには2年、別のサイトには5年と書いてある。どちらが間違いというわけではなくて、見ている根拠が違うだけです。
まず出発点になるのが、介護保険の指定基準(人員・設備及び運営に関する基準の省令)にある「記録の整備」という条文です。ここには、サービス提供に関する記録を 「その完結の日から二年間保存しなければならない」 と書かれています。これが「2年」の出どころ。
ところが、事業所の指定や指導をするのは都道府県や市町村です。国の省令は参酌すべき基準として扱われ、実際の年限は各自治体が条例で定めます。そして多くの自治体が、この部分を 5年 としています。
なぜ5年にしている自治体が多いのか。背景としてよく説明されるのは、不正な請求があった場合の返還を求める権利が5年で時効になる(地方自治法の債権の時効)ことと、運営指導で過去数年分の記録をさかのぼって確認することがある、という2点です。「介護保険の請求権は2年だから2年でいい」と言い切れないのは、このあたりの事情があるためです。
つまり、あなたの事業所にとっての正解は、指定権者の条例に書いてあります。調べ方はこうです。
- 事業所の指定権者を確認する(都道府県か、市町村か。地域密着型サービスなら市町村です)
- その自治体のサイトで「◯◯県 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準を定める条例」などを探す
- 自分のサービス種別の章にある「記録の整備」の条文を見る
一度調べて年限をメモしておけば、次からは迷いません。この確認は、今年やっておくと来年の自分がとても楽になる作業です。
書類は「3つの出どころ」で分けると迷わない

書庫の前で固まってしまうのは、性質の違う書類がひとつの棚に混ざっているからです。まず、出どころで3つに分けてみましょう。
① 介護保険の書類
利用者に関わる記録です。指定基準の「記録の整備」で、残すものが具体的に挙げられています。サービス種別で少し違いますが、だいたい次の顔ぶれです。
- 個別サービス計画(訪問介護計画、通所介護計画など)
- 提供した具体的なサービスの内容等の記録
- 市町村への通知に係る記録
- 身体的拘束等の態様・時間、利用者の心身の状況、緊急やむを得ない理由の記録
- 苦情の内容等の記録
- 事故の状況および事故に際して採った処置についての記録
このほか、契約書・重要事項説明書・同意書、利用者負担に関する書類なども実務では同じ棚に入ります。年限は先ほどの条例の年数です。
② 労務の書類
職員に関わる書類は、介護保険ではなく労働関係の法律で年限が決まっています。介護保険の年限で捨ててしまうと足りなくなるものがあるので、ここは分けておきたいところです。
- 労働者名簿、賃金台帳、出勤簿・タイムカード、雇入れや退職に関する書類などは、労働基準法で5年。ただし「当分の間3年」とする経過措置が続いているため、実務では3年では足りなくなる可能性を見て5年で運用する事業所が多いです
- 健康診断の個人票は、労働安全衛生法で5年
- 雇用保険の被保険者に関する書類は4年、健康保険・厚生年金保険に関する書類は2年
資格証の写しや研修の記録は、法律で年限が決まっているというより、加算や人員基準の根拠として運営指導で見られる書類です。介護保険側の年限に合わせておくと安心です。
③ 経理の書類
お金の書類は、いちばん年限が長くなります。
- 帳簿や請求書・領収書などの経理書類は、法人税法で原則7年。欠損金の繰越控除に関わる事業年度は10年保存が必要になる場合があります
- 法人の種類(社会福祉法人・医療法人・株式会社など)によって、計算書類や会計帳簿を10年保存する定めがあります
介護保険で2年(または5年)だからといって、領収書の控えまで同じ年限で捨てないこと。ここは事務がいちばん気をつけたい交差点です。
| 書類の出どころ | 主な書類 | 年限の目安 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 介護保険 | サービス提供記録、個別サービス計画、事故・苦情・身体的拘束の記録 | 完結の日から2年(条例で5年としている自治体が多い) | 指定基準の省令・自治体の条例 |
| 労務 | 労働者名簿、賃金台帳、出勤簿、雇入れ・退職の書類 | 5年(当分の間3年の経過措置あり) | 労働基準法 |
| 労務 | 健康診断個人票 | 5年 | 労働安全衛生法 |
| 労務 | 雇用保険の被保険者に関する書類 | 4年 | 雇用保険法 |
| 経理 | 帳簿、請求書、領収書などの経理書類 | 原則7年(場合により10年) | 法人税法など |
※ 表は代表的なものだけを並べたものです。細かい書類ごとの扱い、経過措置の状況、法人の種類による違いは変わることがあるので、顧問の社労士・税理士や指定権者の案内で最新をご確認ください。
「完結の日から」の起算点を、事業所で決めておく
年限と同じくらい迷うのが、いつから数えるかです。「完結の日から2年」と書かれていても、その「完結の日」がいつなのか、条文には細かく書かれていません。
実務では、こう整理している事業所が多いです。
- 利用者ごとの記録:その利用者のサービス提供が終わった日(契約終了日、退所日、亡くなられた日など)を完結の日とする
- 月ごとに完結する書類(実績記録票、給付管理票など):その月のサービス提供が終わった日、または請求が完了した日とする
ただし、この起算点の考え方は自治体によって案内が違うことがあります。「サービス提供の都度」と読む立場もあれば、「契約終了時」と読む立場もあります。判断に迷ったら、保険者に電話で「記録の保存年限の起算点は、契約終了日と考えてよいですか」と聞くのがいちばん早いです。聞いたこと自体で不利になることはありません。
そして、事業所として起算点を決めたら、その決めごとを1枚の紙にして書庫に貼っておく。これがいちばん効きます。担当が替わっても、迷いが戻ってこなくなります。
捨てる前に、この3つだけ確認する
年限が来た書類を処分するときは、いきなりシュレッダーに入れる前に、ここだけ見ておくと安心です。
1. 進行中の案件が混ざっていないか 苦情や事故、返戻の対応が続いている書類は、年限が来ていても手元に残します。行政や保険者とやりとりの最中のものは、決着まで置いておきましょう。
2. 廃棄の方法と記録 個人情報が含まれる書類は、復元できない形(溶解・裁断)で処分します。外部に委託するときは、機密保持の取り決めと廃棄証明書の受け取りを確認してください。「いつ・何を・どのように処分したか」を1行残しておくと、あとで「あの記録は?」と聞かれたときに落ち着いて答えられます。
3. 電子データも同じ扱いになっているか 記録は電磁的記録(電子データ)でも差し支えありませんが、紙を捨てて安心していたら、データのほうも消えていたということが起こりえます。バックアップの保存期間、請求ソフトの過去データの保持年数、担当者のパソコンにだけある文書——このあたりを一度たな卸ししておきましょう。電子で受け取った請求書・領収書は、電子帳簿保存法により電子データのまま保存する扱いになる点も、経理担当と共有しておくと安心です。
なお、「不安だから全部永久に残す」も、実は最適解ではありません。個人情報は利用する必要がなくなったときに消去するよう努める、とされています。書庫があふれると必要な書類も探せなくなります。残す年限を決めることは、捨てる勇気ではなく、探しやすさを守る仕事だと考えると気が楽になります。
明日やること
全部を一度に片づけなくて大丈夫です。まずはこの3つだけ。
- 指定権者の条例で、記録の保存年限を確認する。「2年」なのか「5年」なのか、自分の目で1回確かめて、メモに残す。
- 書庫のファイルを、介護保険・労務・経理の3つに分けてみる。中身を精査しなくていいので、棚のラベルを貼り替えるだけで十分です。
- 起算点の決めごとを1枚の紙にする。「利用者記録は契約終了日から◯年」「経理書類は決算から◯年」。この紙が、来年のあなたを助けます。
処分そのものは、この3つが済んでからで間に合います。
確認チェックリスト
- 事業所の指定権者(都道府県/市町村)を把握しているか
- 指定権者の条例で、記録の保存年限(2年か5年か)を確認したか
- 労務の書類を、介護保険とは別の年限で管理できているか
- 経理の書類(帳簿・請求書・領収書)を、7年以上の棚に分けているか
- 「完結の日」の起算点を、事業所として決めて共有しているか
- 進行中の苦情・事故・返戻の書類が、廃棄対象に混ざっていないか
- 廃棄の方法(溶解・裁断・委託)と、廃棄の記録を決めているか
- 電子データの保存期間も、紙と同じ考え方で決めているか
- 決めた年限と起算点を、書庫に貼る/マニュアルに書く形で残したか
全部に丸がつかなくても大丈夫です。上から順に、今日ひとつで十分です。
よければ、こちらも
- 運営指導のときに何をそろえるかは、実地指導で見られる書類一覧|事務がそろえる順番と整え方 と 標準確認項目・標準確認文書で進める事前準備|そろえる順番を一緒に にまとめています。
- 日々の記録の残し方そのものを見直したいときは、日々の記録を指導に強くする残し方|あとで困らない一言の工夫、普段からの備えは 自己点検チェックリストで普段から備える|無理なく続ける形に が近いテーマです。
- 個人情報の扱いと廃棄の考え方は、個人情報の取り扱いと同意の取り方|介護の現場で押さえる基本 をどうぞ。事故・苦情の記録の残し方は 苦情を受けたときの初期対応と記録の残し方を一緒に整理 と 事故報告とご家族への連絡|あわてないための順番を一緒に整理 にあります。
- 財務・経理まわりの公表対応は 財務諸表等の公表義務化への備え|事務が準備する順番を整理 が参考になります。金額の概算を確かめたいときは 介護報酬・利用者負担の概算 計算機 も使えます。
書類の保存年限は、覚えておく知識というより、一度決めて貼っておくものです。毎回思い出そうとするから重たく感じるだけで、事業所として年限と起算点を決めてしまえば、あとは棚に入れるだけの作業になります。
今日、書庫の前で「これは捨てていいのかな」と立ち止まったなら、それは記録を大事に扱っている人の手つきです。その丁寧さを、来年からは少しだけ軽い形で続けていけます。
