亡くなられた利用者のファイルを両手で静かに持ち、事務机のそばで落ち着いて次の手順を考えている介護事業所の事務担当者

利用者が亡くなられたとき|事務の手続きとご家族への案内を整理

朝の申し送りで、昨夜のことを聞く。ご家族はもう来られていて、居室の前が静かになっている。頭を下げたあと、席に戻って、パソコンの前で少しだけ手が止まる——「この方の請求、どうなるんだったかな」。

そう考えてしまう自分を、少し薄情に感じたことはありませんか。でもそれは違います。残された手続きをきちんと締めることは、その方の最後の記録を整えるという、事務にしかできない仕事です。

今日は、利用者さんが亡くなられたあとに事務が動くことを、時間の流れに沿って一緒に整理していきます。一度に覚えなくて大丈夫です。順番だけ手元に置いておければ十分です。

結論:やることを3つの時間軸に分けると迷いにくくなります。①当日——日時の確定と、お預かりしているものの確認。ご家族への金銭の話は急がない。②請求月——死亡日までの実績を締め、日割りや加算の扱いを自事業所の種別で確認する。介護保険の資格は死亡した日の翌日に喪失します。③そのあと——利用料の精算とご請求。ここでの相手はご本人ではなくご遺族(相続人)に変わり、口座振替が使えなくなることがあります。細かい算定の取扱いはサービス種別と通知で違うので、迷ったら保険者(市町村)や指定権者に確認するのがいちばん早くて確実です。

「退所」と似ているようで、少し違う

一般的な退所・契約終了の流れは 介護の退所・契約終了|手続きと書類を落ち着いて整える にまとめています。骨組みはそちらと同じですが、亡くなられた場合には、事務にとって3つだけ違うところがあります。

つまり、やることは似ていても、進め方の速度と宛先が変わる。そこを最初に頭に入れておくと、判断がぶれにくくなります。

3つの時間軸で分けて考える

亡くなられたあとの事務を「当日」「請求月」「そのあと」の3つの場面に分けて並べた概念図
やることを時間で3つに切り分けると、同時に押し寄せて見えた仕事が順番に並びます。

① 当日〜数日:確定させることと、まだ渡さないもの

この時期に事務がやるのは、確定作業と、預かりものの整理です。お金の話は、あとに回します。

確定させること

お預かりしているものの棚おろし

このうち保険証類は、市町村での資格喪失の手続きに使うことがあるため、ご家族にお返しするタイミングを整理しておきます。預り金は、金額を締めて記録に残し、精算のときに一緒にご説明する形が落ち着きます。

なお、死亡診断書は医師が交付するもので、事務が作成する書類ではありません。ご家族から「証明書を」と言われたときは、何の証明書が必要なのかを一度確認してから動くと、行き違いを防げます。

そしてこの数日、いちばん大事なのはここかもしれません。金銭のご請求は、この段階では持ち出さない。 「後日、精算のご案内を郵送でお送りします。ご都合のよいときにご覧ください」——そのひと言だけ添えて、ご家族の時間を守るほうを選びます。

② 請求月:締めのときに迷いやすいところ

月末が来ると、いつもの請求業務の中にこの方の分が混ざってきます。ここで手が止まりやすいのが次の3点です。

1. 死亡日そのものを算定するかどうか

サービスの提供は、当然ながら亡くなられた日までです。問題は「その日を算定に入れるか」で、ここはサービス種別によって扱いが違います。施設サービスには「入所日と退所日が同じ日である場合を除き、退所日は算定しない」という考え方があり、一方で亡くなられた場合の取扱いが別に示されているものもあります。

自己流で判断せず、自分の事業所の種別の留意事項通知(介護給付費の算定に係る留意事項)を見るか、保険者に確認するのがいちばん確実です。この確認は一度やって事業所のメモに残せば、次からは見るだけで済みます。

2. 資格喪失の日は「翌日」

介護保険の被保険者資格は、亡くなられた日の翌日に喪失します。「当日」ではありません。ここを1日ずらすと、請求のエラーや返戻につながることがあります。

なお、市町村への資格喪失の手続きは、通常はご遺族が死亡届などと合わせて行います。自治体によっては死亡届の情報で処理が進む場合もあるので、「ご家族にお願いすること」と「行政の中で進むこと」を、自分の市町村について一度確認しておくと案内しやすくなります。

3. 看取りに関する加算は、月をまたいでまとめて算定する形になる

看取り介護加算やターミナルケア加算は、亡くなられた日からさかのぼった日数に応じた区分で、亡くなられた月にまとめて算定する組み立てになっています。前月分のケアが今月の請求に乗るため、月次の点検で見落としやすいところです。要件と記録の整え方は 看取り介護加算の算定要件と記録の整え方を一緒に確認する に詳しくまとめています。

具体例:特別養護老人ホームで、7月14日の未明に亡くなられたAさんのケース。事務がやったのは、①記録から死亡日時を拾って一覧に転記、②7月1日〜14日の提供実績を実績記録票で突合、③死亡日の扱いを保険者に電話で確認(3分で終わりました)、④看取り介護加算の対象日をケア記録とつき合わせて算定日数を確定、⑤資格喪失日は7月15日と控える。ここまでを月末の締めより前に済ませたので、8月の請求作業は普段どおりのペースで回りました。

在宅の方で、居宅介護支援事業所が関わっている場合は、その月にサービス提供の実績があるかどうかで給付管理や居宅介護支援費の扱いが変わります。ケアマネさんと実績を早めに突き合わせておくと、月末に慌てずに済みます。実績の突合のしかたは 実績記録票の突合、月末にあわてないための手順を一緒に が参考になります。

③ そのあと:精算とご請求、そして証明書

四十九日の前後にご案内を出す事業所が多いようですが、決まりがあるわけではありません。事業所として「◯日後を目安に郵送する」と決めておくと、担当者ごとにばらつかなくなります。

宛先をどうするか

ご請求の相手は、ご本人ではなくご遺族(相続人)になります。ここで困るのが「誰に送ればいいのか」。ご入所中に窓口になってくださっていた方と、実際に手続きをされる方が違うこともあります。

お別れのときにあわてて聞くのは避けたいので、契約や入所のときに「ご請求やご連絡の窓口」を確認して控えておくのがおすすめです。すでにその欄がない書式なら、次の見直しのときに一行足しておきましょう。

やむを得ずあとから確認するときは、こんな言い方がやわらかく伝わります。

「このたびは心よりお悔やみ申し上げます。最後のご利用分の精算のご案内を、後日書面でお送りしたいと思っております。お送り先は、◯◯様のご住所でよろしいでしょうか」

支払い方法が変わることがある

ご本人名義の口座からの引き落としは、金融機関がご逝去を把握した時点で口座が凍結され、振替ができなくなることがあります。「いつもの口座から落ちるはず」と思っていると、翌月に未収として残り、あらためてご連絡することになってしまいます。

最後の月の精算は、振込用紙を同封する・窓口でお支払いいただくなど、別の方法をあらかじめ用意しておくと安心です。

ご家族が必要とされる書類

事務のほうから先回りしてご案内できると、ご家族の負担が軽くなります。

記録は、ここから保存年限が始まる

亡くなられた日、あるいは契約終了日が、記録の「完結の日」になります。ここを起点に保存年限を数えるので、ファイルを閉じるときに表紙へ完結日を書いておくと、数年後の自分がとても楽になります。年限の考え方は 介護の書類、保存年限は何年?迷わないファイリングを一緒に整理 にまとめています。

影響:一度「型」にすると、次からは心を使う側に回れる

この手続きがしんどいのは、作業そのものが難しいからではありません。気持ちを立て直しながら、同時に段取りを思い出さないといけないからです。

だから、型を1枚作っておく意味があります。手順が紙にあれば、その分だけ、ご家族への言葉や、居室の片づけに立ち会うことに気持ちを使えます。事務の型は、冷たいものではなく、心を使う余白を作るためのものです。

明日やること

全部を今日そろえなくて大丈夫です。まずこの3つだけ。

  1. 「訃報を受けたときの1枚」を作る。①日時の確定 ②預かりものの棚おろし ③請求の確認事項 ④ご案内の郵送予定日、の4ブロックだけの紙で十分です
  2. 死亡日の算定の扱いを、自事業所の種別で1回だけ確認する。留意事項通知を見るか、保険者に電話する。確認できたらその1枚に書き込む
  3. 契約書類に「ご請求・ご連絡の窓口」欄があるか見る。なければ、次の見直しのときに足すとメモしておく

1と2ができていれば、次にその日が来たとき、手は止まっても迷いはしません。

確認チェックリスト

全部に丸がつかなくても大丈夫です。上から順に、今日ひとつで十分です。

よければ、こちらも

利用者さんが亡くなられたあとの事務には、正解の速度がありません。早ければ丁寧なわけでも、遅ければ冷たいわけでもない。その方の記録を、正しい形で最後まで閉じること。それが、私たちにできる見送り方だと思います。

ご家族が去っていった玄関を見送ったあと、席に戻って請求ソフトを開いたあなたは、薄情なのではありません。最後まで、その方の一日を数えている人です。今日の分の手続きが済んだら、少しだけ深呼吸してください。それも仕事のうちです。

手続きを終えて閉じたファイルに手を添え、明るい窓の外を見て静かにほほえむ介護事業所の事務担当者