事務室の机に被保険者証と利用者台帳を並べ、住民票の市町村と保険者の市町村が違うことに気づいて確かめ直している介護事業所の事務担当者

住所地特例・保険者が変わったときの請求、確認の順番を一緒に整理

「この方、住所はうちの市なんですけど、保険者番号が隣の市なんです」。新しく入所された方の被保険者証を見て、手が止まったことはありませんか。

入力ミスかと思って見直しても、やっぱり違う市町村の番号が書いてある。台帳の住所欄とかみ合わないので、どちらに合わせて請求すればいいのか分からなくなる。返戻になったら困るし、かといって誰に聞けばいいのかも分からない。

これ、間違いではありません。住所地特例という、制度がわざとそうしているしくみです。そして、いちばんつまずきやすいのは「知らないこと」ではなく、「知っているけれど、どこまでが元の市町村で、どこからが施設のある市町村なのか、境目があいまいなまま」の状態です。境目さえ引ければ、あとは普段どおりの請求で通ります。

今日は、その境目を一緒に引いていきます。あわせて、住所地特例ではない普通の転出入で保険者が変わったときの、請求の分け方も整理します。

結論:見るところは3つです。①被保険者証に書かれた保険者番号(=請求先はここ)/②各種の証(負担割合証・負担限度額認定証など)も同じ保険者のものか/③1単位の単価だけは「事業所の所在地」で決まる。住所地特例は「住民票は施設のまち、保険者は元のまち」というねじれを、そのまま受け入れる制度です。迷ったときは住民票ではなく被保険者証の保険者番号を信じてください。ただし、対象施設の範囲・届出の様式・総合事業の扱いは市町村(保険者)によって細部が異なります。最終的な確認は、その方の保険者と、自事業所の指定権者にお願いします。

何が起きているか — 保険者を動かさないためのしくみ

まず、なぜこんなややこしいことになっているのかを押さえておきましょう。ここが分かると、迷ったときの判断が速くなります。

保険者とは、介護保険を運営している市町村(および特別区)のことです。要介護認定をして、被保険者証を出して、事業所からの請求に対して介護報酬を支払う立場にあります。介護保険は原則として「住民票のある市町村が保険者になる」(住所地主義)というルールで動いています。

ところが、介護施設は都市部より地価の安い周辺の市町村に建つことが多く、入所にあわせて住民票も施設所在地に移ります。原則どおりに保険者が移ってしまうと、施設が多い市町村ほど給付の負担が集中してしまう。それでは、施設の受け入れに前向きな市町村ほど苦しくなってしまいます。

そこで設けられたのが住所地特例です。対象になる施設に入所して住民票を移した場合、保険者は入所前に住んでいた市町村のままにする。住民票と保険者を、あえて切り離すわけです。

つまり、あなたが被保険者証を見て感じた違和感は、制度が意図してつくったねじれです。事業所側の入力ミスでも、利用者さんの手続き漏れでもありません。ここは安心してください。

以前住んでいた町の役場が保険者のままで、住民票だけが施設のある町へ移ることを左右に並べて示した図
住民票は施設のある市町村へ移っても、保険者は元の市町村のまま。この「ねじれ」が住所地特例です。請求先は左側の市町村になります。

どの施設が対象になるのか

境目を引く一歩目は、施設の種類です。すべての施設が住所地特例の対象になるわけではありません

区分施設の例住所地特例
介護保険施設介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム/定員30人以上)、介護老人保健施設、介護医療院対象
特定施設有料老人ホーム、軽費老人ホーム(ケアハウス)、養護老人ホーム対象
同上有料老人ホームに該当するサービス付き高齢者向け住宅対象(2015年4月から)
地域密着型認知症対応型共同生活介護(グループホーム)、地域密着型介護老人福祉施設(定員29人以下)、地域密着型特定施設対象外
在宅自宅、一般の賃貸住宅など対象外(そもそも入所ではない)

ここで、事務としてぜひ知っておきたい点が2つあります。

1つめ。「特定施設入居者生活介護の指定を受けているかどうか」は関係ありません。 住所地特例の対象は「特定施設」であって、「指定特定施設」ではありません。介護保険の指定を受けていない有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅でも、老人福祉法上の有料老人ホームに該当すれば対象になります。「うちは特定施設の指定を取っていないから関係ない」と思い込んで、届出が漏れるパターンがここです。

2つめ。地域密着型は原則として対象外です。 地域密着型サービスは、そもそもその市町村の住民が使うことを前提にしたしくみなので、住所地特例の出番がありません。グループホームは規模も雰囲気も特定施設に近いので混同しやすいのですが、扱いは違います

なお、対象施設から別の対象施設へ移ったときは、いちばん最初に施設へ入る前に住んでいた市町村が、そのまま保険者として続きます。施設を2回、3回と移っても、保険者はさかのぼって最初の市町村のまま。これも覚えておくと、経歴の長い方の被保険者証を見たときに驚かずにすみます。

請求で確認すること

ここからが実務です。順番に見ていきましょう。

1. 請求先は「被保険者証の保険者番号」

いちばん大事なところです。住所地特例の方の請求は、被保険者証に書かれている保険者番号(=元の市町村)宛てに行います。住民票の市町村ではありません。

国保連への伝送そのものは普段どおりです。国保連は都道府県単位なので、保険者が県内の別の市町村であれば、同じ国保連への請求で完結します。保険者が他都道府県の市町村の場合も、請求先の国保連は自事業所の所在する都道府県の国保連で、そこから保険者へ回る形になります(この点は請求ソフトの設定と、念のため国保連の手引きで確認しておくと安心です)。

請求ソフト側では、その利用者さんの保険者マスタを正しく登録できているかがすべてです。ここが住民票の市町村になっていると、資格の情報と合わずに返戻になります(→ 国保連の返戻はなぜ起きる?よくある原因と対応の手順を整理)。

2. 各種の証も「元の保険者」から出る

ここも取り違えが起きやすいところです。次のものは、すべて保険者=元の市町村が出します。

新規の受け入れで書類をそろえるとき、つい施設のある市町村の窓口を案内したくなりますが、申請先は元の市町村です。郵送で手続きすることになるので、更新時期には少し余裕を見て動くのが実務のコツです(→ 負担限度額認定証の確認と、補足給付の請求のしかたを整理)。

3. 1単位の単価だけは「事業所の所在地」

ここが、いちばん間違えやすいポイントかもしれません。

保険者は元の市町村。でも、1単位あたりの単価を決める地域区分(級地)は、事業所の所在地で決まります。利用者さんの保険者がどこであっても、単価は「うちの事業所がある場所の級地」です。

たとえば、事業所が7級地の市にあり、利用者さんの保険者が1級地の市だった場合。単価は7級地のもので計算します。保険者に合わせて1級地の単価を使うと、当然ズレます。

「保険者に関することは元の市町村、事業所に関することは所在地」。この分け方で覚えておくと迷いません(→ 地域区分・級地区分と1単位単価の確認のしかたを一緒に整理)。

4. 地域密着型サービス・総合事業を使うとき

2015年4月から、住所地特例の対象になっている方も、施設のある市町村の地域密着型サービスや、介護予防支援、総合事業を利用できるようになりました。それ以前は使えなかったので、古い資料を見ていると誤解しやすいところです。

このとき、費用を負担するのは保険者=元の市町村です。ただし総合事業は市町村ごとに単価やサービスコードが違うため、どちらの市町村の単価・コードで請求するのかという迷いが生まれます。ここは取り扱いが分かれやすいので、保険者(元の市町村)に一度確認して、その回答をメモに残しておくのがいちばん確実です(→ 総合事業の請求はどこが違う?押さえる順番を一緒に整理)。

5. 届出を忘れずに

住所地特例が始まるとき・終わるときには、住所地特例適用届(変更届・終了届)を保険者へ提出します。原則は本人(またはご家族)の届出ですが、実務では施設が用意して手続きを助けることがほとんどです。

また、対象施設には入所・退所を保険者へ連絡する役割もあります。様式や提出先は市町村ごとに異なるので、受け入れが決まった時点で、その市町村のホームページから様式を取っておくとスムーズです。

住所地特例ではない「保険者変更」のとき

ここからは、施設入所ではなく、普通に他の市町村へ引っ越して保険者が変わったケースです。在宅サービスを使っている方の転居や、家族の家の近くへ移られたときなどに起きます。

月の途中で変わったら、請求を分ける

保険者が変わると、被保険者番号も新しくなります。月の途中で変わった場合は、その月のサービスを、旧保険者の期間と新保険者の期間に分けて、それぞれに請求します。給付管理票も、保険者ごとに分けて作ることになります(→ 給付管理票の作成手順と、よくある記載ミスを一緒に確認)。

分ける基準は「サービスを提供した日が、どちらの資格期間に入るか」です。転入日以降のサービスは新保険者、その前は旧保険者。ここは日付を1日ずつ確認するのがいちばん確実です。

区分支給限度基準額の扱い(それぞれの保険者の期間ごとに限度額をみるのか、月で通してみるのか)は、実務で迷いやすいところです。取り扱いを保険者とケアマネジャーの双方に確認してから、給付管理票を確定させるようにしてください。ここを思い込みで進めると、月遅れの修正につながります(→ 区分支給限度基準額の管理と、超過したときの考え方を整理)。

受給資格証明書は14日以内

利用者さんやご家族に、ぜひお伝えしておきたいことがあります。

転出のときに、旧市町村から介護保険受給資格証明書を受け取り、それを持って転入から14日以内に新市町村へ届け出ると、それまでの要介護認定がそのまま引き継がれます。この手続きを逃すと、新しい市町村であらためて認定を受け直すことになり、その間の区分が定まりません。

引っ越しは、ご本人もご家族もばたばたしています。事務からひとこと「転出のとき、市役所で受給資格証明書という紙をもらってきてください」と声をかけておくだけで、あとの流れがずいぶん違います。これは事務にしかできない、静かで大きな仕事です。

同じ市町村の中の転居なら

同一市町村内で住所が変わっただけなら、保険者も被保険者番号も変わりません。住所変更の届出は必要ですが、請求の扱いはそのままです。ここで請求を分けようとして混乱する必要はありません。

つまずきやすいところ

現場でよく聞くのは、この6つです。

どれも、知らないと引っかかるけれど、一度知っていれば防げるものばかりです。返戻になったことがあるとしても、それはあなたの確認不足ではなく、制度が本質的にややこしいからです。

明日やること

全部をいっぺんに整える必要はありません。明日は、この4つで十分です。

  1. 利用者台帳で「住所の市町村」と「保険者番号」が違う方を洗い出す。1人でもいれば、その方が住所地特例の可能性が高い方です
  2. その方の被保険者証の写しを確認し、請求ソフトの保険者設定と一致しているかを見る。ここが合っていれば、まず大丈夫です
  3. 負担割合証・負担限度額認定証の発行元を確認する。元の市町村から出ていれば正常です
  4. 住所地特例適用届の控えがファイルにあるかを確認する。見当たらなければ、その市町村の様式を取り寄せておきます

1と2まで進めば、その日はもう合格点です。3と4は来週の自分に回しましょう。

確認チェックリスト

よければ、こちらも

住所地特例は、利用者さんから見れば「引っ越しただけ」の出来事です。制度がねじれていることも、請求先が違うことも、ご本人が意識することはまずありません。そのねじれを、被保険者証を1枚ずつ確かめながら黙って吸収しているのが、事務の仕事です。

うまくいっているときは、誰にも気づかれません。返戻になって初めて「介護保険って、ややこしいんですね」と言われる。少し理不尽だな、と思う日もあると思います。

でも、あなたが保険者番号を一つ確かめておいたから、その方は住み慣れた市町村の認定を持ったまま、新しい場所で暮らしを続けられています。制度と暮らしをつなぎ直しているのは、その確認の一手間です。

住所地特例は、介護保険の中でもとくに分かりにくい部類だと思います。今日「住民票ではなく被保険者証を見る」と決められたなら、それだけでもう、いちばん大きな落とし穴はまたげています。

確認を終えた被保険者証と書類をきちんとそろえ、穏やかな表情で顔を上げている介護事業所の事務担当者