
住宅改修費・福祉用具購入費の受領委任払い|手続きを一緒に整理
「先週、玄関に手すりを付けたんです。申請ってこれからでも間に合いますよね」
ご家族からそう言われた瞬間、受話器を持ったまま言葉に詰まる。工事はもう終わっている。喜んで報告してくださっている。でも、この制度は着工前の申請が前提だったはず——。どう伝えればいいのか分からないまま、「確認してご連絡します」と言って電話を切る。
その気まずさを一度でも味わったことがあるなら、今日はここを一緒にほどいていきましょう。住宅改修費と福祉用具購入費は、ふだんの介護報酬請求とは流れがまったく違う制度です。 国保連は経由しません。毎月の請求にも乗りません。窓口は市区町村で、しかも「先に申請する」ことが入口になっています。この2つを知っているだけで、あの電話の受け方が変わります。
結論:まず①この2つは区分支給限度基準額とは別枠の、市区町村へ直接申請する制度だと押さえる → ②着工前・購入前の事前申請が原則で、後から出しても対象にならないことがあると理解する → ③支払い方には償還払い(利用者がいったん全額を払って、後から保険給付分が戻る)と受領委任払い(利用者は自己負担分だけを払い、残りは市区町村から事業者へ直接支払われる)があり、受領委任払いを使えるかどうかは市区町村ごとに違う、の順で整理すると迷いません。支給限度基準額・対象種目・様式・受領委任払いの実施の有無は保険者(市区町村)の運用や制度改正で変わるため、最終判断は必ずお住まいの市区町村の最新案内でご確認ください(本記事は2026年8月時点の一般的な整理です)。
なぜ、ここでつまずきやすいのか
- 毎月の仕事ではない。訪問介護や通所介護の請求は毎月来ますが、住宅改修は年に数件です。手順が体に入る前に、次の1件までが空いてしまいます
- 窓口がちがう。ふだん向き合っているのは国保連ですが、この2つは市区町村へ直接です。提出先も、様式も、締切の考え方も別物です
- 「申請してから工事」の順番が、生活の感覚と逆。ご本人やご家族からすれば、困っているのだから早く付けたい。段取りとしては自然な行動が、制度の順番とは合いません
- 登場人物が多い。ご本人、ご家族、ケアマネ、施工業者または販売事業者、市区町村。誰が何を用意するのかが、はじめは見えません
- 受領委任払いの有無が、市区町村ごとに違う。隣の市ではできたのに、うちの市ではできない。これは担当者の思い違いではなく、実際にそうなっています
どれも、覚え違いや不注意ではありません。ふだんの請求業務と別の回路で動く仕事なので、同じやり方が通じないだけです。回路の形が分かれば落ち着きます。
その1:この2つは「別枠」で「市区町村へ直接」
まず、いちばん大きな前提から。
住宅改修費(居宅介護住宅改修費・介護予防住宅改修費)と、福祉用具購入費(特定福祉用具販売・特定介護予防福祉用具販売)は、どちらも区分支給限度基準額の枠の外にあります。毎月のサービスをどれだけ使っていても、この2つの枠は別に持っています。区分支給限度基準額そのものの考え方は区分支給限度基準額の管理|超えたときの考え方を一緒に整理にまとめています。
そして、請求先も違います。
| ふだんのサービス | 住宅改修費・福祉用具購入費 | |
|---|---|---|
| 請求先 | 国保連 | 市区町村(保険者) |
| タイミング | 毎月 | その都度 |
| 限度額 | 区分支給限度基準額 | それぞれ別の枠 |
| 事前の手続き | 不要 | 事前申請が原則 |
「国保連に出すもの」だと思って月次の請求に混ぜてしまうと、当然どこにも届きません。まず頭を切り替える。ここが第一歩です。
それぞれの枠の目安
- 住宅改修費:同一の住宅・同一の被保険者について、支給限度基準額20万円が原則です。1回で使い切る必要はなく、複数回に分けて使えます。要介護状態区分が大きく上がったときや、転居したときには、あらためて枠が使えるようになる取り扱いがあります
- 福祉用具購入費:同一年度(4月1日から翌年3月31日まで)に10万円が支給限度基準額です。年度が変わればまた枠が戻ります
どちらも、支給されるのは対象となった費用のうち、保険給付分(利用者負担割合を除いた部分)です。20万円・10万円は「もらえる額」ではなく「対象にできる費用の上限」だと理解しておくと、ご家族への説明で行き違いが起きません。負担割合そのものの確認は利用者負担割合証の確認と請求への反映|見落としを防ぐ手順が参考になります。
なお、この2つは高額介護サービス費のしくみ|事務が押さえる点を一緒に整理の対象外です。「上限を超えたぶんは高額介護サービス費で戻りますよね」と聞かれることがありますが、そこは別の制度です。落ち着いて「こちらは別の枠になります」と伝えれば大丈夫です。
その2:順番は「事前申請 → 工事・購入 → 事後提出」
ここが、冒頭の電話につながる部分です。
住宅改修費は、着工前に市区町村へ申請するのが原則です。福祉用具購入費も、指定を受けた事業者から購入することが前提で、購入後の手続きが必要になります。どちらも「終わってから出す」形は想定されていません。
順番にすると、こうなります。
1. 事前申請(着工前・購入前)
住宅改修では、工事を始める前に市区町村へ書類を出します。よく求められるのは次のあたりです。
- 支給申請書(市区町村の様式)
- 住宅改修が必要な理由書(ケアマネジャー等が作成します)
- 工事費見積書(内訳が分かるもの)
- 改修前の状況が分かるもの(写真・簡単な図面など)
- 住宅の所有者が本人でない場合の承諾書
「理由書はケアマネが書く」「見積書は施工業者が出す」というように、誰が用意するかが分かれているのがこの段階の特徴です。事務が全部を書くわけではありません。そろえて、期日までに窓口へ届けるのが持ち場です。
2. 工事・購入
市区町村の確認を経てから着工します。ここで大事なのは、申請した内容と実際の工事が一致していること。現場で「せっかくだからここにも付けましょう」と追加が入ることがありますが、申請の範囲を超えると対象にならない可能性があります。変更が出たら、着工前に市区町村へ相談です。
3. 事後提出(完了後)
工事や購入が終わったら、完了の書類を出します。よく求められるのは次のあたりです。
- 支給申請書(完了分)
- 領収書(原本を求められることが多いところです)
- 工事費内訳書(実際にかかった費用の内訳)
- 改修後の状況が分かる写真(日付が入っているものを求められることがあります)

もし「工事が終わってから」と言われたら
これが、いちばん気まずい場面です。責める必要はまったくありません。ご本人やご家族は、困っているから動いただけです。伝え方だけ、あらかじめ用意しておきましょう。
「手すり、付いたんですね。お困りだったところが少し楽になったなら何よりです。ひとつだけ確認させてください。この制度は工事の前に市から確認をもらう決まりになっていて、今回の分が対象にできるかを市に相談してみます。次に何か付けるときは、先に一度こちらへお声がけいただけると、こちらで段取りしますね」
受け止める → 事実を伝える → 次につなげる。この3つの順番だけ決めておけば、あの沈黙は起きません。市区町村によっては、やむを得ない事情があるときの取り扱いを設けていることもあります。決めつけずに、まず相談するのがいちばんです。
その3:償還払いと受領委任払いの違い
ここが今日の中心です。
償還払い(原則の形)
利用者が、いったん費用の全額を施工業者や販売事業者へ支払います。そのうえで市区町村へ申請し、後日、保険給付分が利用者の口座へ振り込まれます。
このやり方の困りごとは、はっきりしています。最初に大きな金額を用意しなければならないことです。20万円の工事なら、いったん20万円。年金で暮らしておられる方にとって、これは軽くありません。「戻ってくるのは分かっているけれど、今は出せない」——この一言を、窓口で聞いたことのある方も多いと思います。
受領委任払い
利用者は、自己負担分(1〜3割)だけを事業者へ支払います。残りの保険給付分は、市区町村から事業者へ直接支払われます。利用者が保険給付分を受け取る権利を、事業者へ委任する形です。
つまり、利用者から見れば「窓口で3万円だけ払えばいい」。手元の負担が、最初から小さくなります。
| 償還払い | 受領委任払い | |
|---|---|---|
| 利用者が最初に払う額 | 費用の全額 | 自己負担分だけ |
| 保険給付分の支払い先 | 後から利用者へ | 市区町村から事業者へ |
| 利用者の負担感 | 大きい | 小さい |
| 使えるかどうか | どの市区町村でも原則あり | 市区町村ごとに違う |
大事なのは、最後の行です。
受領委任払いは、市区町村が独自に用意している取り扱いです。実施していない市区町村もあります。 実施していても、
- 事業者が事前に登録・届出をしていることが条件になっている
- 対象を住宅改修だけに限っている(福祉用具購入費は償還払いのみ)
- 利用者側にも条件(保険料の滞納がないことなど)を設けている
といった具合に、条件が異なります。「前の職場ではできた」は、そのままここでは使えません。 保険者ごとの違いをどう調べて管理するかは介護のローカルルール|保険者ごとの違いの調べ方と管理を一緒ににまとめています。この2つの制度は、まさにその差が出やすいところです。
事務が最初にやること
やることはシンプルです。自分の事業所が関わる市区町村について、受領委任払いがあるかないかを、1枚の表にしておく。それだけです。
| 市区町村 | 住宅改修の受領委任 | 福祉用具購入の受領委任 | 事業者登録 | 様式の場所 | 確認日 |
|---|---|---|---|---|---|
| あり/なし | あり/なし | 済/未/不要 |
一度作っておけば、次に相談を受けたときに「うちの市は使えます」「こちらの市は償還払いになります」と、その場で答えられます。ご家族にとっては、この一言が資金の段取りを決めます。 待たせずに答えられることの価値は、思っているより大きいものです。
福祉用具購入費で、もうひとつ気をつけたいこと
住宅改修と並べて説明しましたが、福祉用具購入費には固有の注意点があります。
指定を受けた事業者から買う必要があります
特定福祉用具販売の指定を受けた事業者からの購入が対象です。同じ品物でも、通販や量販店で買ったものは対象になりません。ご家族が良かれと思って先に買ってしまい、後から対象外と分かる——これも、よくある形です。「買う前に一度ご相談ください」を、契約時の説明に一行足しておくと防げます。利用開始時の説明のそろえ方は利用開始時にそろえる書類と受付の流れ|抜けを防ぐ順番が近いテーマです。
対象になるのは、決められた種目です
腰掛便座、入浴補助用具、簡易浴槽、移動用リフトのつり具の部分など、貸与になじまない(直接肌に触れる、再利用しにくい)ものが購入の対象という考え方です。反対に、車いすや特殊寝台のようなものは、原則として貸与の枠で扱われます。
なお近年は、一部の用具について、貸与と購入を選べる取り扱いが設けられています。スロープや歩行器、歩行補助つえの一部などがこれにあたります。選択制の対象種目や、選ぶときの説明の進め方は運用が整理されてきている部分なので、対象かどうかは福祉用具専門相談員と一緒に、最新の案内で確認するのが確実です。事務が単独で判断しなくて大丈夫です。
年度をまたぐと枠が戻ります
10万円の枠は年度単位です。3月に使い切ってしまっても、4月からはまた枠があります。逆に、3月末に駆け込みで購入すると、その年度の枠から出ることになります。「今年度あといくら残っているか」を利用者ごとに持っておくと、相談を受けたときにすぐ答えられます。
記録・保管として残しておきたいもの
この2つは件数が少ないぶん、書類がばらけやすい仕事です。利用者ごと・案件ごとに1つの封筒(またはフォルダ)にまとめるのが、いちばん確実です。
- 事前申請の控え一式(申請書・理由書・見積書・改修前の写真)
- 市区町村からの確認(決定・承認)の通知
- 完了後の書類の控え(領収書の写し・工事費内訳書・改修後の写真)
- 受領委任払いを使った場合の、委任に関する書類の控え
- 利用者へ渡した説明資料の控え(自己負担額をどう説明したか)
- 支給決定の通知(いくらで決定したか。枠の残りを追うための元になります)
いちばん抜けやすいのは、支給決定の通知です。工事が終わって一区切りついた気持ちになるので、届いた通知をそのまま綴じてしまいがちです。ここに「今回いくら使ったか」が書かれているので、残り枠を管理するにはこの1枚が要ります。 書類の保存期間の考え方は介護事業所の書類保存年限|何をいつまで残すかを一緒に整理にまとめています。
利用者へ発行する請求書・領収書の作り方そのものは利用料の請求書・領収書の作り方|基本の項目を一緒に確認が参考になります。受領委任払いのときは、領収した額が自己負担分だけになるので、記載の仕方をあらかじめ決めておくと迷いません。
影響:お金の心配を、先に軽くできる
ここを整えると、金額の話以上のものが残ります。
「今は出せない」で、あきらめずに済みます。 受領委任払いが使えると分かっているだけで、手すりを付けるかどうかの相談が前に進みます。転倒を一度防げれば、それは骨折を防いだということです。事務室で保険者の一覧を作る仕事は、廊下で誰かが転ばずに済む未来につながっています。
ケアマネや施工業者との段取りが早くなります。 「この市は受領委任あり、登録済み」と即答できる事務がいると、ケアマネは安心して話を進められます。理由書を書く側から見ても、手戻りが減ります。
説明の場面で、迷わなくなります。 ご家族に聞かれるのは、たいてい「いくらかかるの」「いつ戻るの」「今いくら払えばいいの」の3つです。償還払いと受領委任払いの違いが頭に入っていれば、この3つは同じ言葉で答えられます。
そして、あの気まずい電話が減ります。 「先に一度お声がけください」を契約時に伝えておくだけで、工事の後から相談が来ることが減ります。相手を責めなくて済むというのは、こちらの心もずいぶん軽くします。
明日やること(優先順位と代替)
- 関わっている市区町村のうち、いちばん件数の多い1つだけ、受領委任払いがあるかを調べる(介護保険の担当課のページか、電話で1本。5分で分かります。全部の市区町村を今日やらなくて大丈夫です)
- あれば、事業所の登録が必要か・済んでいるかを確認する(登録が要る市区町村では、これが済んでいないと使えません)
- 保険者ごとの一覧表を、1行だけ作る(列は6つ。今日は1行でも、あとから足していけます)
- 住宅改修の様式(申請書・理由書)を、市区町村のページからダウンロードして1か所に置く(次に相談が来たとき、探すところから始めずに済みます)
- 福祉用具購入費の「今年度の残り枠」を、直近で購入があった方について確認する(支給決定の通知が手元にあるかを見るだけです)
- 契約時の説明資料に「工事・購入の前に一度ご相談ください」の一行を足せないか検討する(すぐ差し替えなくて構いません。次の改訂のときで十分です)
- ケアマネや施工業者と、書類を誰が用意するかの分担を一度そろえる(サービス担当者会議の場が使えるならサービス担当者会議で事務ができるサポート|段取りを一緒に整理も参考になります)
全部を今日やらなくて大丈夫です。1と3だけでも、次にご家族から電話が来たときの足場ができます。
確認チェックリスト(持ち歩き用・最小ライン)
- 住宅改修費・福祉用具購入費が、区分支給限度基準額とは別枠だと説明できる
- 請求先が国保連ではなく市区町村だと分かっている
- 住宅改修は着工前の事前申請が原則だと、ご家族に伝えられる
- 事前申請でそろえる書類(申請書・理由書・見積書・改修前の状況が分かるもの)を把握している
- 理由書はケアマネジャー等が作成するものだと分かっている
- 完了後に出す書類(領収書・工事費内訳書・改修後の写真)を把握している
- 償還払いと受領委任払いの違いを、自分の言葉で説明できる
- 関わる市区町村ごとに、受領委任払いの実施の有無を一覧にしている
- 受領委任払いに事業者の登録・届出が必要な市区町村を把握している
- 福祉用具購入は指定を受けた事業者からが対象だと説明できる
- 福祉用具購入費の枠が年度単位(4月〜翌3月)だと分かっている
- 利用者ごとに、使った額と残り枠を追える形になっている
- 支給決定の通知を、案件ごとの書類とまとめて保管している
- 受領委任払いのときの領収書の書き方(自己負担分のみ)を決めている
- 対象種目・限度額・様式・受領委任払いの取り扱いを、市区町村の最新案内で確認した
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一度に全部そろえなくて大丈夫です。市区町村に1本電話をする。表を1行だけ作る。様式を1か所に置く。この3つだけで、次の相談への構えができます。今日は、いちばん件数の多い市区町村の受領委任払いを調べるところまでで十分です。

住宅改修の相談は、たいてい「困ってから」やってきます。転びそうになった。立ち上がれなくなってきた。退院が決まった。どれも急ぎの話で、こちらの段取りを待ってはくれません。
だから、順番を守れなかったご家族を責める気にはなれないと思います。それでいいのだと思います。私たちにできるのは、次に同じことが起きないように、先に一言置いておくこと。そして、お金の心配で立ち止まっている方に「この市なら、最初は自己負担分だけで大丈夫です」と伝えられるようにしておくことです。
制度の名前は硬くて、様式は市区町村ごとにばらばらで、覚えることが多い仕事です。でも、その先にあるのは、玄関に手すりが1本つくという、とても具体的な変化です。書類の順番を整える仕事は、誰かが安心して家に帰るための仕事です。 今日、市区町村のページを開いたなら、それはもうその一歩を踏み出しています。