
処遇改善加算の実績報告書、あわてず作る手順と提出前の確認
「処遇改善加算の実績報告書、そういえばそろそろの時期だ……去年どうやって作ったっけ」。年に一度しか触らない書類だから、毎回ゼロから思い出しながら――その感覚、よくわかります。日々の請求と違って手が覚えていないぶん、様式を開いた瞬間に「どこから埋めればいいんだっけ」と手が止まりますよね。
でも大丈夫。実績報告書がやっていることは、突きつめると一つだけです。「もらった加算の総額」と、それを原資に「実際に払った賃金改善の総額」を並べて、払った分がもらった分以上になっていることを示す。この一本の骨組みさえ押さえれば、あとは数字を集めて様式に写すだけの作業になります。今日はその流れを、順番に一緒に整理します。
結論:①1年分の加算の入金(収入)総額を集める → ②同じ期間に職員へ払った賃金改善の総額を集める → ③「②が①以上か」を突き合わせる → ④様式に転記して提出、の4ステップです。区分名・様式・提出期限は改定と自治体で変わるため、最終内容は必ず最新の厚生労働省の通知と、指定権者(都道府県・市町村)の案内で確認してください。
なお、2024年度(令和6年度)の介護報酬改定で、従来の「介護職員処遇改善加算」「特定処遇改善加算」「ベースアップ等支援加算」は「介護職員等処遇改善加算」に一本化されました(経過措置の区分が置かれた年もあります)。一本化に合わせて実績報告の様式も見直されているので、去年と同じ様式のつもりでいると差し替えが必要なことがあります。手元の様式が対象年度の最新版かを、最初に確認しておきましょう。
そもそも実績報告書は何を確かめる書類?
言葉が難しく感じるだけで、中身はシンプルです。処遇改善加算は「職員の待遇改善に使ってくださいね」という前提で入ってくるお金です。だから年度が終わったあとに、こう報告します。
- もらった加算(収入)は、1年間でいくらだったか
- そのお金を原資に、職員へ払った賃金改善は、1年間でいくらだったか
- 払った額(賃金改善)が、もらった額(加算)以上になっているか
ここで「払った額が、もらった額を下回っている」と、その差額は返還の対象になります。逆に言えば、報告書の一番の役割は「ちゃんと職員に回しました」を数字で示すこと。だから作業も「二つの総額を集めて並べる」ことが中心になります。
突き合わせのイメージ

このてんびんが「右(払った賃金改善)が同じか下がっている=重い」状態になっていれば、報告の芯は通ります。あとはその数字の根拠をそろえるだけです。
作り方の4ステップ
① もらった加算(収入)の総額を集める
対象期間(多くは前年度の4月〜翌3月のサービス提供分)に算定した処遇改善加算の額を合計します。集めやすいのは次のあたりです。
- 国保連からの支払決定額通知(加算分が分かるもの)
- 請求ソフトの加算集計・月次の請求控え
- 利用者負担分に加算が含まれる場合は、その分も忘れずに
ポイントは「サービス提供月ベースで1年分そろえる」こと。月遅れ請求や返戻・再請求で入金月がずれた分も、対象期間のサービス分なら拾います。ここは請求データが元なので、事務が一番力を出せるところです。
② 払った賃金改善(支出)の総額を集める
同じ期間に、加算を原資として職員へ上乗せした賃金改善の額を合計します。
- 基本給・手当・一時金など、賃金改善として支給した分
- 賃金改善に伴って増えた法定福利費など(自治体の様式で対象とされる範囲に従う)
- 対象職種・対象職員の範囲は、算定している区分のルールに合わせる
ここでよく迷うのが「どこまでを賃金改善に数えるか」です。改善前(基準となる年)の賃金水準と比べて“上乗せした分”が賃金改善額、という考え方が基本になります。給与担当と「何を基準額にしたか」を先に一言そろえておくと、集計がぶれません。
③ ①と②を突き合わせる
集めた二つの総額を並べて、「② 賃金改善額 ≧ ① 加算総額」になっているかを確認します。
- ②が①以上 → 芯はOK。根拠資料を整えて様式へ
- ②が①を下回る → 差額が返還対象になり得るので、原因を確認(支給漏れ・集計漏れ・基準額の取り違え等がないか)
年度の途中で「入ってくる加算に対して、支給が追いついているか」を四半期に一度でも眺めておくと、年度末に大きくずれて慌てることが減ります。
④ 様式に転記して提出する
自治体(指定権者)指定の実績報告書の様式に、集めた数字を写します。
- 対象年度・事業所番号・サービス種類の取り違えに注意
- 法人一括提出か事業所単位かは案内に従う(窓口が分かれることもあります)
- 電子申請届出システムなど、提出方法の指定があればそれに合わせる
いつまでに出す?(時期の目安)
加算の算定期間が終わったあと、実績報告書には提出期限があります。 算定期間が年度(4月〜翌3月)の場合、翌年度の7月末日までを期限としている自治体が多く見られます。ただし、期限も提出先も指定権者ごとに違うため、ここは必ず自治体の案内で確認してください。
年に一度きりの締切なので、「去年いつ出したか」を台帳に一行残しておくと、来年の自分がとても助かります。まだ確認していなければ、今日、自治体サイトで対象年度の期限と様式のページだけでも開いてブックマークしておきましょう。
つまずきやすいところ(先回りメモ)
- 基準額の取り違え:どの年・どの水準を「改善前」の基準にするかを最初に固定する
- 対象職種の範囲:算定区分ごとに対象がちがう。範囲の判断根拠(通知の該当箇所)を控えておく
- 月遅れ・返戻分の拾い漏れ:入金月ではなくサービス提供月で1年分を数える
- 一時金・賞与の期ずれ:どの期の支給を当年度に含めるか、自所ルールを先に決めてメモ
- 様式の年度違い:昨年の様式を使い回さない。対象年度の最新様式か先に確認
- 未充足時の放置:②が①を下回ったら、まず集計漏れ・支給漏れを疑い、原因を記録に残す
影響:ここを押さえると、返還も監査も落ち着いて対応できる
実績報告書は、算定した加算を「約束どおり職員に回しました」と示す証明です。ここで支給が収入を下回っていると差額の返還が生じますが、逆に、日ごろから支給実績と根拠資料がそろっていれば、運営指導(旧・実地指導)や監査で加算について尋ねられても、落ち着いて数字で示せます。年に一度の報告のための集計が、そのまま普段の備えにもなります。
明日やること(最小で動かす)
- 自治体サイトで、対象年度の実績報告書の様式と提出期限のページを開いてブックマークする
- 請求ソフトから、対象期間(前年度分)の加算の月次集計を1枚出しておく
- 給与担当と「賃金改善の基準額を何にしたか」を一言そろえておく
提出前チェックリスト(優先順位つき)
- 最低ライン(今週中)
- 対象年度の最新様式を入手した
- 提出期限・提出先(窓口/オンライン)をカレンダー化した
- もらった加算(収入)の1年分の集計を用意した
- 次点(提出まで)
- 払った賃金改善(支出)の1年分の集計を用意した
- ②賃金改善額 ≧ ①加算総額 になっているか突き合わせた
- 基準額・対象職種の考え方をメモに残した
- 仕上げ
- 対象年度・事業所番号・サービス種類に取り違えがないか見直した
- 提出控え(写し・受付日)を台帳に一行残した
そのまま使える最小メモ(賃金改善つき合わせシート)
- 対象期間:__年4月〜__年3月(サービス提供分)
- ① もらった加算(収入)総額:____円(根拠:国保連支払決定通知/請求ソフト集計)
- ② 払った賃金改善(支出)総額:____円(根拠:給与台帳/支給控え)
- 内訳の考え方(基本給/手当/一時金/法定福利費 等):
- 基準額(改善前の水準):____円
- ③ 突き合わせ:② − ① = ____円(0以上ならOK。マイナスなら原因確認)
- 提出:様式年度__/提出先__/期限__/提出日__/控え保管場所__
※ 区分・様式・対象範囲に自治体差があります。使う前に、最新の通知・指定権者の案内に沿って調整してください。
よければ、こちらも
実績報告の前段になる区分や要件のまとまりは、処遇改善加算の区分と算定要件を、やさしく整理するで骨組みから整理しています。加算全体の取りこぼしを防ぐ普段の点検は加算の算定漏れを防ぐ、月次点検のしかたを、月々の請求全体の確認は介護報酬請求の月次ミスを防ぐ、提出前チェックリストもあわせてどうぞ。

処遇改善加算の実績報告書は、年に一度きりだから毎回身構えてしまいますが、やっていることは「もらった分と払った分を並べて見せる」だけ。二つの総額を集めて突き合わせる――この芯さえ通っていれば、様式が変わっても落ち着いて対応できます。今日この流れを一度たどっておけば、来年の自分はもう少しラクになっています。あわてず、一つずつ一緒に整えていきましょう。
職員さんの待遇を支える事務の仕事があるから、介護の現場は今日も安心して回っています。