事業所の隣に建つ高齢者向け住宅の見取り図を広げ、どの利用者が減算の対象になるかを利用者一覧と見比べている介護事業所の事務担当者

同一建物減算と送迎減算、線引きと請求での扱いを一緒に整理

「同じ建物の方だから、減算ですよね」。そう言われて頷いたあとで、「あれ、でも通所のときはどう数えるんだったっけ」と手が止まったこと、ありませんか。隣の棟に住んでいる方、渡り廊下でつながった建物から通ってくる方、ご家族が車で送ってこられる方。ひとつずつは分かっているつもりなのに、並べて見た途端に自信がなくなる。そういう領域です。

迷うのは、あなたの理解が足りないからではありません。同じ「同一建物」という言葉なのに、訪問系と通所系で見ている場所が違うからです。ここさえ切り分けてしまえば、あとは順番に当てはめるだけになります。今日は、その線引きを一緒に整理していきましょう。

結論:同一建物減算は、大きく訪問系通所系で仕組みが分かれます。訪問系(訪問介護・訪問看護など)は、事業所と同一敷地内・隣接敷地内の建物などに住む方へのサービスが対象で、所定単位数の10%減算。その建物の利用者が1月あたり50人以上なら15%減算、それ以外の場所にある建物でも1月あたり20人以上なら10%減算になります。さらに2024年度(令和6年度)改定で、訪問介護には同一敷地内建物等に住む方の割合が90%以上のとき12%減算が加わりました。一方通所系(通所介護など)は、事業所と構造上・外形上一体の建物に住む方が対象で、1日につき94単位の減算。送迎を行わなかった場合の送迎減算は片道47単位で、同一建物減算が適用される日には重ねて取りません。人数の数え方や割合の判定期間は通知で細かく定められていますので、自治体の案内と解釈通知で必ず確認してください。

なぜここで迷うのか

訪問系は事業所と建物の敷地の位置関係、通所系は事業所と一体の建物かどうか、送迎は送迎車を使ったかどうかで見るという、3つの見どころを並べて示した図
見どころは3つ。訪問は敷地・建物の位置関係、通所は事業所と一体の建物か、送迎は送迎車で送り迎えをしたか

同一建物減算は、もともと「同じ建物にまとまって住んでいる方にサービスを提供すると、移動の手間が少なくて済む」という考え方から来ています。趣旨はシンプルです。

ややこしくなるのは、サービスの種類ごとに「どこを見るか」が違うからです。

同じ敷地内の別棟でも、訪問系なら対象になり、通所系なら対象にならない——という組み合わせが起きるのは、このためです。「前に確認した記憶」と食い違って見えるのは、そのときと違うサービスの話をしているから、ということが少なくありません。

なお、これは加算のように「取りにいく」ものではなく、要件に当たれば必ず適用される減算です。事業所の判断で外すことはできませんし、逆に必要のない減算をかける必要もありません。だからこそ、入り口で線引きを持っておくと、あとの請求がずいぶん静かになります。

訪問系:建物の範囲と人数で、減算率が変わる

訪問介護・訪問看護・訪問リハビリテーション・訪問入浴介護などが対象です。段階は、大きく次のように整理できます。

事業所と近い建物(同一敷地内建物等)

事業所と同一敷地内または隣接する敷地内にある建物に住んでいる方、あるいは事業所と同じ建物に住んでいる方が対象です。有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、養護老人ホーム、軽費老人ホームなどが典型ですが、名称ではなく位置関係で見ます。

所定単位数が200単位のサービスなら、10%減算で180単位、15%減算で170単位です。1回あたりでは小さく見えますが、月に何十回も積み上がると、それなりの差になります。

少し離れた建物(同一敷地内建物等以外)

上の範囲には入らない建物でも、1つの建物に住む利用者が1月あたり20人以上であれば、10%減算の対象になります。「うちの事業所は敷地が離れているから関係ない」と思っていた建物が、利用者が増えて対象になっていた——これは実際によくある見落としです。

訪問介護の12%減算(2024年度改定で新設)

2024年度(令和6年度)の報酬改定で、訪問介護に新しい区分が加わりました。その事業所の利用者のうち、同一敷地内建物等に住む方が占める割合が90%以上である場合、所定単位数の12%減算となります(2024年6月1日から適用)。200単位なら176単位です。

こちらは「建物ごと」ではなく「事業所全体の利用者に占める割合」で見るのが、これまでと違うところです。特定の集合住宅を中心に回っている事業所では、判定の対象になり得ます。

ここは確認してから:50人・20人という人数をどの期間で数えるのか、90%の割合をどの実績で判定するのかは、通知やQ&Aで細かく定められています。事業所の形によって当てはめ方も変わりますので、指定権者(自治体)の案内と解釈通知で確認してください。分からないまま自己判断するより、窓口に一度聞いてしまうほうが早いことも多いです。

通所系:1日94単位の減算と、送迎減算47単位

通所介護・地域密着型通所介護・認知症対応型通所介護・通所リハビリテーションなどが対象です。訪問系と違って、率ではなく1日あたりの単位数で引きます。

同一建物減算(1日につき94単位)

事業所と同一の建物に住んでいる方、またはその建物から通ってくる方について、1日につき94単位を減算します。ここでの「同一の建物」は、事業所と構造上または外形上、一体的な建築物を指します。渡り廊下でつながっているような場合も含まれる一方で、同じ敷地内でも完全に別棟であれば含まれない、という整理です。訪問系の「敷地」で見る発想とは別物、と覚えておくと混乱しません。

月に20日利用される方なら、94単位 × 20日 = 1,880単位。1か月分としてはまとまった額になります。

ただし、送迎が必要な方には減算しない

ここが見落とされやすいところです。同じ建物に住んでいても、傷病によって一人での移動が難しい方など、やむを得ない事情で送迎が必要と認められる方に実際に送迎を行った場合は、この減算をしません。

「同じ建物=必ず減算」と機械的に処理してしまうと、本来は減らさなくてよい分まで減らしてしまいます。該当しそうな方がいたら、なぜ送迎が必要なのかを記録に残したうえで、現場と確認しておきましょう。

送迎減算(片道47単位)

事業所が送迎を行わなかった場合は、片道につき47単位を減算します。往復とも行わなければ1日94単位です。

現場では「今日は娘さんが送ってきました」という情報が、記録に残らないまま流れていきがちです。送迎の実施を、日々の記録のどこかで拾える形にしておくのが、事務にできるいちばん確実な備えです。

同一建物減算と送迎減算は、重ねない

同一建物減算(94単位)を算定する日については、送迎減算は重ねて算定しません。両方引いてしまうと過剰な減算になりますし、逆にどちらも引き忘れれば過大請求になります。請求ソフトが自動で処理してくれることが多い部分ですが、設定が利用者ごとに正しく入っているかは、一度目で確かめておくと安心です。

影響:限度額の管理と、あとから気づいたとき

区分支給限度基準額の見え方

事務が戸惑いやすいのが、区分支給限度基準額の管理では、同一建物減算の適用があっても減算前の単位数で見るという取扱いです。「請求した単位数」と「限度額に積み上がる単位数」がずれるため、手計算で突き合わせると数字が合わずに焦ります。

これはミスではなく、そういう決まりです。請求ソフトは通常この処理を織り込んでいますので、画面上の数字が食い違って見えたときは、まずこの取扱いを思い出してみてください。ご不安があれば、ソフトのサポートに確認するのがいちばん早い道です。

あとから気づいたときは、過誤申立で直せる

減算を漏らしたまま請求していたことに、数か月あとで気づく。これは、決して珍しい話ではありません。建物の入居者が増えていた、利用者が引っ越していた、送迎の運用が変わっていた——現場の変化は、事務の机には遅れて届きます。

気づいた時点で直せます。すでに支払いが済んだ分は過誤申立をして取り下げ、正しい内容で再請求するという流れです。慌てて全部を一度に直そうとせず、対象の月と利用者を書き出してから、順番に進めれば大丈夫です。

なお、単位数の計算で小数点以下が出たときの端数処理も定められていますが、こちらは請求ソフト側で処理されます。手元で概算するとき、数単位の差が出ても慌てなくて大丈夫です。

明日やること:建物と利用者を、1枚に並べる

一度に完璧を目指すと、手が止まります。まずは「見える化」から始めましょう。

  1. 建物を書き出す:自分の事業所が関わっている集合住宅・高齢者向け住宅を、名前と場所で一覧にします。5分でできます。
  2. 事業所との位置関係を書き添える:同一敷地内か、隣接か、離れているか。通所であれば、事業所と一体の建物かどうか。地図や見取り図を横に置くと早いです。
  3. 建物ごとの利用者数を数える:訪問系であれば、50人・20人の目安に近い建物がないかを確かめます。近い建物には印をつけておきます。
  4. 請求ソフトの設定を突き合わせる:利用者ごとの減算設定が、いま作った1枚と合っているかを見ます。ここでズレが見つかることが、いちばん多いです。
  5. 送迎の記録の拾い方を決める:「送迎なし」をどこに書くか、誰が事務に伝えるか。連絡ノートの1行でも、送迎表の丸印でも、続けられる形で構いません。
  6. 判断に迷った建物を、窓口に聞く:グレーに見えるものは、自己判断で置かずに指定権者へ。聞くこと自体が、後々の説明材料にもなります。

今日は1番だけでも十分です。建物の一覧ができた時点で、全体像はもう半分見えています。

確認したいチェックリスト

全部に丸がつかなくても、まったく問題ありません。

次回に向けて

同一建物減算は、一度整理してしまえば、あとは「変化があったときに直す」だけの仕事になります。利用者の引っ越し、建物の入居者の増減、送迎の運用変更——変わったときに事務へ一報が入る道筋さえ作っておけば、毎月ゼロから確認する必要はありません。

現在の内容は2024年度(令和6年度)改定にもとづくものです。次の改定は2027年度(令和9年度)が予定されていますので、そのタイミングでもう一度この1枚を見直す、というくらいの間隔で十分です。

建物ごとの整理が済んだ一覧表を机に置き終え、明るい窓の外を見てほっとひと息ついている介護事業所の事務担当者

減算の話は、間違えると数字にはっきり出るぶん、身構えてしまいますよね。でも今日やったことは、建物を書き出して、位置を書き添えて、設定と見比べる——事務が日ごろから得意にしている作業の延長線上にあります。「同じ建物だから減算ですよね」と聞かれて、少し立ち止まって確かめようとしたこと。その慎重さが、事業所のお金の正しさを静かに守っています。全部を今日覚えなくて大丈夫です。手元に1枚あれば、次からは見るだけで済みます。

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