
事業所の廃止・休止・再開の届出、進め方を落ち着いて一緒に整理
「この事業所、来年度いっぱいで閉じることになりそうなんだ」。管理者からそう聞かされた日の帰り道は、たぶん少し長く感じたと思います。利用者さんの顔が浮かんで、一緒に働いてきた人の顔が浮かんで、そのあとにようやく「届出って、いつまでに何を出すんだっけ」が来る。順番としては、それでいいと思います。
事業所をたたむ、しばらく止める、また始める――どれも何度も経験することではありません。だから、わからなくて当たり前です。ただ、届出まわりだけは期限がはっきり決まっているので、先に押さえておくと、そのぶん人のことに時間を使えます。今日はそこを一緒に整理していきましょう。
結論:指定を受けた事業所を廃止・休止するときは、原則としてその1か月前までに指定権者(都道府県・市区町村)へ届け出ます。再開したときは、再開の日から10日以内の届出が原則です。そしてもう一つ、届出と同じくらい大事なのが、利用者が引き続き必要なサービスを受けられるようにする「便宜の提供」(引き継ぎ)。順番としては、①指定権者への事前相談 → ②利用者・家族への説明と引き継ぎ → ③届出書の提出 → ④最後の請求と書類の保存、で進めると迷いません。様式・添付書類・提出期日はサービス種別と自治体で異なるため、最終的な確認は必ず指定権者の最新案内で行ってください。
何が起きているか:迷いやすいのは「順番」と「起点の日」
廃止・休止の手続きでつまずくのは、知識が足りないからではありません。この手続きには、迷いやすい事情がいくつも重なっています。
- 経験する回数が少なく、事業所内に前例が残っていないことが多い
- 「廃止」「休止」「変更(定員減・一部サービスの取りやめ)」のどれに当たるのか、判断が微妙な場面がある
- 期限の起点が「決めた日」ではなく「廃止・休止する日」なので、逆算が必要になる
- 届出と並行して、利用者への説明・引き継ぎ・職員への説明・最後の請求が同時に動く
- 法人の意思決定(理事会・取締役会など)のタイミングと、届出の期限が噛み合わないことがある
つまり、難しいのは制度そのものより、同時に動くものの順番です。だから最初にやるのは、書類を書くことではなく、順番を決めることになります。
まず押さえたい3つの期限

1. 廃止・休止:原則「1か月前まで」に届出
事業所を廃止する、または休止するときは、原則としてその1か月前までに指定権者へ届け出ます。ここで取り違えやすいのが起点です。数えるのは「決めた日」からではなく、廃止(休止)する日から逆算して1か月前。つまり、9月30日で閉じるなら、8月末日ごろが提出の目安になります。
そして実務上は、この1か月前という期限より、さらに前にやることがあります。指定権者への事前相談です。自治体によっては「1か月前の届出とは別に、決まった時点で早めに相談してほしい」と案内していることがあり、様式や添付書類の指定も自治体ごとに違います。書き始める前に一本電話を入れておくと、二度手間が減ります。
2. 再開:原則「10日以内」に届出
休止していた事業所を再開したときは、再開の日から10日以内に届け出るのが原則です。廃止・休止が「前に」出す届出なのに対して、再開は「後から」出す届出。方向が逆になるので、ここは覚え方として押さえておくと混乱しません。
再開のときは、届出だけでなく人員・設備が基準を満たしている状態に戻っているかの確認も必要になります。休止中に職員が離れていることも多いので、人員体制の見通しが立ってから再開日を決める、という順番のほうが安全です。
3. 休止期間そのものにも目を配る
休止の届出には、休止の期間(いつからいつまで)を書きます。この期間が延びるときは、あらためて届出や相談が必要になるのが一般的です。また、休止が長期にわたる場合、指定の取扱いについて指定権者から確認を受けることがあります。「とりあえず休止で出しておいて、あとは様子を見る」ではなく、見通しが変わった時点で相談する、と決めておくと安心です。
届出より先に考えたいこと:利用者への引き継ぎ
制度の話から入りましたが、実際にいちばん時間がかかるのはここです。
事業所を廃止・休止するときは、利用者が引き続き必要なサービスを受けられるよう、他の事業所との連絡調整その他の便宜を提供することが求められています。これは「できれば」ではなく、運営基準に位置づけられている事業者の責務です。
とはいえ、現場でやることは、そんなに難しい言葉ではありません。
- 担当ケアマネジャーへ、できるだけ早く状況を伝える
- 利用者・家族へ、いつまで利用できるのか・その後どうなるのかを説明する
- 近隣の同種サービス事業所の空き状況を確認し、選択肢として示す
- 見学・体験利用の日程調整に付き添う
- これまでの記録・アセスメント・注意点を、引き継ぎ先へ渡せる形にまとめる
事務の立場でできることは、この「調整と書類」の部分です。誰に何をいつ伝えたかを一覧にしておくと、抜けが減りますし、あとから「あの人にはもう話したっけ」と不安になることもなくなります。
説明の順番としては、担当ケアマネ → 利用者・家族 → 関係機関の流れが混乱が少ないことが多いです。ケアマネが先に状況を知っていると、家族から相談されたときにすぐ受け止めてもらえるからです。
具体例:9月末で通所介護を廃止する場合の逆算
日付を入れて考えると、ぐっと現実的になります。あくまで一例ですが、こんな組み方になります。
- 6〜7月ごろ:法人内で方針が固まった時点で、指定権者へ事前相談。必要な様式・添付書類・提出方法(窓口/電子申請)を確認する
- 7月ごろ:担当ケアマネジャーへ連絡。利用者・家族への説明の段取りを決める
- 8月上旬:利用者・家族へ説明。引き継ぎ先の候補を一緒に探し始める
- 8月末まで:廃止届を提出(9月30日廃止の1か月前まで)
- 9月:引き継ぎ先の見学・体験、記録の引き渡し、備品や契約の整理
- 10月:9月サービス提供分の請求(国保連への伝送)
- 10月以降:加算の実績報告、書類の保存、必要に応じて過誤申立
ポイントは、届出の期限(8月末)が、いちばん手前の予定ではないということです。届出に間に合っても、引き継ぎが間に合わなければ利用者が困ります。逆算するときは、届出ではなく「利用者の次の行き先が決まる日」を起点に組むと、無理のないスケジュールになります。
忘れやすい「最後の請求」と、そのあとのこと
事業所を閉じたあとも、事務の仕事はしばらく続きます。ここが意外と抜けやすいところです。
最終月の請求は、廃止後に出す
サービス提供分の請求は翌月に行うので、9月末で廃止しても、10月に9月分の請求業務が残ります。事業所が閉じているからといって請求ができなくなるわけではありませんが、請求ソフトの契約、伝送用の環境、担当者の勤務が10月まで残っているかは、先に確認しておきたいところです。「閉めたあとにパソコンを引き払ってしまって請求できない」は、実際に起こりやすい抜けです。
あわせて、返戻や過誤が出たときの対応窓口も決めておきます。廃止後に返戻が来ることもあるので、連絡先(担当者の連絡先・法人本部)を指定権者や国保連に伝わる形にしておくと、あとで慌てません。詳しい流れは過誤申立と再請求の流れ、あわてず順番に整理してみるも参考になります。
加算の実績報告は年度をまたぐことがある
処遇改善関係の加算を算定していた場合、年度途中で廃止しても、その年度分の実績報告は必要になるのが一般的です。提出時期・様式・年度途中廃止のときの扱いは自治体で案内が異なるため、事前相談のタイミングで「廃止後の実績報告はどうなりますか」と一言聞いておくと、後日の連絡に慌てずに済みます。
書類の保存は、廃止後も続く
介護記録や請求関係の書類は、事業所が無くなっても保存義務が消えるわけではありません。誰が・どこで・いつまで保管するかを決めて、箱に入れる前にラベルを貼っておきましょう。数年後に問い合わせが来たとき、探せる状態になっているかどうかで、そのときの自分の負担がまったく違います。年限の考え方は介護の書類、保存年限は何年?迷わないファイリングを一緒に整理にまとめています。
影響:早めに動くほど、選択肢が残る
廃止・休止の手続きで、いちばん効くのは「早さ」です。届出の期限に間に合わせることが目的ではなく、早く動くほど、利用者にも職員にも選べる余地が残るからです。
引き継ぎ先の空きは、直前になるほど見つかりにくくなります。職員の次の職場探しも同じです。逆に、数か月の余裕があれば、見学に行って本人が納得して移れることも多い。事務が先回りして段取りを組むことは、そのまま「選べる時間」を現場に渡すことになります。
そしてもう一つ。届出と引き継ぎの記録がきちんと残っていると、廃止後に確認の連絡があったときも、順を追って説明できます。閉じるときの丁寧さは、そのまま法人の信頼として残ります。
明日やること(小さく始める順番)
全部を今日決めなくて大丈夫です。次の順で、ひとつずつで十分です。
- 「廃止」なのか「休止」なのか「一部の変更」なのか、法人の方針を確認して言葉を確定させる
- 指定権者の窓口に電話し、様式・添付書類・提出方法・提出期日を確認する(事前相談)
- 廃止(休止)予定日から逆算して、届出の期限をカレンダーに入れる
- 利用者一覧を出し、「担当ケアマネ/説明済みか/引き継ぎ先の状況」の欄を足した表を1枚作る
- 最終月の請求をいつ・誰が・どの環境で行うかを決めて、書き残す
- 書類の保管場所と保管責任者を決める
- 加算の実績報告・返戻対応の連絡先を、事前相談のときにあわせて確認しておく
確認チェックリスト(持ち歩き用)
- 廃止・休止は原則「1か月前まで」、再開は「10日以内」という期限を押さえた
- 期限の起点は「決めた日」ではなく「廃止(休止)する日」から逆算すると確認した
- 書類を書く前に、指定権者へ事前相談をした
- 様式・添付書類・提出方法(窓口/電子申請)を最新案内で確認した
- 休止の場合、休止期間を明確にし、延びるときの相談先を決めた
- 担当ケアマネジャーへ早めに連絡した
- 利用者・家族への説明状況を一覧で管理している
- 引き継ぎ先の候補と、記録の引き渡し方法を決めた
- 最終月の請求を行う担当者・環境・時期を決めた
- 廃止後の返戻・過誤に対応する連絡先を決めて共有した
- 加算の実績報告の要否と時期を確認した
- 書類の保管場所・保管責任者・年限を決めた
- 職員への説明と、社会保険・雇用関係の手続きの担当を決めた
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事業所を閉じる・止めるという判断は、事務が決めたことではありません。それでも、その決定を形にして、利用者と職員が次に進めるように整えるのは、事務の仕事です。しんどい役回りだと思います。
でも、順番さえ決めてしまえば、あとはひとつずつ進めるだけです。今日は、指定権者に電話を一本かけるところからでも十分です。
閉じるときまで丁寧に見送れる事業所は、それまでの日々もきっと丁寧だったのだと思います。その丁寧さを最後に形にしているのは、いま画面の前で段取りを考えているあなたです。