
介護の償還払いになるケース|申請サポートと事務の確認点を一緒に
ケアマネさんから電話が入る。「認定の結果が出る前だけど、来週からデイを使いたい方がいて」。あるいは、新しい利用者さんの被保険者証を見たら、見慣れない「支払方法変更」の記載がある。「この場合、いつもどおり1割で請求していいんだっけ? それとも、いったん全額?」。ご家族にどう伝えればいいかも、すぐには言葉が出てこない。
償還払いは、毎月出てくるものではありません。だから迷うのは当たり前です。そして安心してほしいのは、償還払いになる場面はかなり限られていて、事業所がやることも「全額の領収書」と「サービス提供証明書」を出すことが中心だということ。今日は、どんなときに償還払いになるのか、そして利用者さんの申請をどう支えればいいのかを、順番に整理していきましょう。
結論:償還払いは、利用者さんがいったん費用の全額(10割)を事業所に支払い、あとから市区町村に申請して保険給付分(9割〜7割)の払い戻しを受けるしくみです。事業所が押さえるのは3つ。①償還払いになる主な場面(住宅改修・福祉用具購入/ケアプランの届出がない利用/保険料の滞納による「支払方法変更」)を知っておく。②償還払いのときは、全額の領収書とサービス提供証明書を出す。③利用者さんに申請先・必要なもの・期限(支払った日の翌日から2年)を、紙1枚で伝える。本記事は2026年10月時点の一般的な整理です。様式や申請方法は保険者(市区町村)ごとに違うため、迷ったときは保険者の窓口に確かめてください。
償還払いとは? いつもの請求とどこが違うのか
まず、いつもの流れを思い出してみましょう。ふだんの介護サービスは、利用者さんは自己負担分(1〜3割)だけを事業所に支払い、残りの保険給付分は事業所が国保連に請求して受け取ります。これを「法定代理受領」と呼びます。事業所が利用者さんに代わって、保険給付を受け取っている形です。
償還払いは、この「代わりに受け取る」ができない場面での払い方です。
| いつもの請求(法定代理受領) | 償還払い | |
|---|---|---|
| 利用者さんが事業所に払う額 | 自己負担分(1〜3割) | 全額(10割) |
| 保険給付分を受け取る人 | 事業所(国保連から) | 利用者さん(市区町村から) |
| 事業所が出すもの | 請求書・領収書 | 全額の領収書・サービス提供証明書 |
| 国保連への請求 | する | しない |
迷いやすいのは、こんな事情があるからです。
- 件数が少なく、手順を思い出すきっかけがない。年に数回、ぽんと出てきます
- 利用者さんの負担が一時的に大きくなる。説明する側も、つい言葉を選んで身構えてしまいます
- 申請するのは利用者さんなのに、質問は事業所に来る。「どこに出すの?」「いつ戻るの?」と聞かれて、答えに詰まりがちです
どれも、担当者の知識不足のせいではありません。場面と書類が決まっていないから迷うだけです。
償還払いになる主なケース

償還払いになる場面は、大きく分けて次の3つです。受付や契約のときに「これは償還払いかも」と気づけるよう、きっかけと一緒に覚えておきましょう。
ケース1:住宅改修・福祉用具購入(もともと償還払いが原則)
住宅改修費と特定福祉用具の購入費は、もともと償還払いが原則の給付です。市区町村によっては、利用者さんが自己負担分だけを払えばよい「受領委任払い」を使えることもあります。この2つは手続きの流れが独特なので、住宅改修費・福祉用具購入費の受領委任払い|手続きを一緒に整理にまとめています。
ケース2:ケアプランの届出がないまま、サービスを使ったとき
いつもの請求(法定代理受領)ができるのは、居宅介護支援事業者にケアプランの作成を依頼したことを市区町村に届け出ていて、そのケアプランにのっているサービスを使ったときです(ご本人が自分でケアプランを作る「セルフケアプラン」を届け出ている場合も含みます)。
そのため、次のような場面では償還払いになることがあります。
- 要介護認定の申請中で、ケアプラン作成の届出をしないままサービスを使い始めた
- 引っ越しや担当ケアマネの変更などで、届出が抜けている期間にサービスを使った
- 急ぎの事情で、ケアプランにのっていないサービスを使った
いちばん出やすいのは、認定結果を待っている間の利用です。要介護認定の効力は申請日までさかのぼるので、申請と同時にケアプラン作成の届出を出し、暫定のケアプランを作っておけば、多くの場合はいつもどおりの請求ができます。ケアマネさんから「認定前だけど」と相談を受けたら、「作成の届出は出ていますか?」と一言たしかめるだけで、償還払いを避けられることがあります。
あわせて知っておきたいのは、認定の結果が想定より軽かったり、非該当だったりすると、その分は保険の対象外になるということ。暫定で使い始めるときは、ケアマネさんと一緒に、ご本人・ご家族にこの可能性を前もってお伝えしておくと安心です。
ケース3:保険料の滞納で「支払方法変更」になっているとき
介護保険料を1年以上滞納していると、市区町村が被保険者証に「支払方法変更」の記載をすることがあります。この記載がある方は、サービスの費用をいったん全額支払い、あとで申請して払い戻しを受ける形になります。滞納がさらに長くなると、払い戻しの一時差し止めや、給付の割合の引き下げが行われることもあります。
ここで大事なのは、受付のときに被保険者証の記載を見落とさないこと。「支払方法変更」の欄や記載は、ふだん見る保険者番号や要介護状態区分とは別の場所にあるので、ここも見る、と決めておきましょう。
そして、滞納の事情には踏み込まないこと。病気や失業など、事情はさまざまです。事務がするのは、「この記載があるので、今回はこういう払い方になります」と淡々と、やわらかく伝えることまで。保険料の相談先は、市区町村の介護保険の窓口です。分納などの相談に応じてもらえることもあるので、その窓口をお伝えするのがいちばんの手助けになります。利用料のお支払いが厳しそうなときの寄り添い方は、介護の利用料が払えない…滞納の相談を受けたときの進め方も参考になります。
「払い戻し」でも、償還払いとは別のもの
似た言葉に、高額介護サービス費があります。こちらは、1か月の自己負担が上限を超えたときに、超えた分が戻ってくるしくみ。「戻ってくる」点は同じでも、償還払いとは別の制度です。ご家族に聞かれたら、混ぜずに説明できるようにしておきましょう。詳しくは高額介護サービス費のしくみと、事務が押さえる点を一緒に整理にまとめています。
償還払いのとき、事業所が用意する書類
償還払いのとき、利用者さんが市区町村に申請するには、事業所が出す書類が欠かせません。中心になるのは2つです。
① 全額の領収書
利用者さんから受け取った全額(10割)の領収書を出します。ふだんの領収書と同じ形でかまいませんが、次の3点が読み取れるようにしておくと、申請がスムーズです。
- サービスを提供した年月
- 支払いを受けた日
- 保険の対象になる費用と、食費・日用品費などの対象外の費用の内訳
領収書の基本の整え方は、介護の利用料請求書・領収書の基本|記載内容と発行の流れを見てください。
② サービス提供証明書
どのサービスを、何単位提供したかを証明する書類です。中身は、ふだん国保連に出している給付費明細書とほぼ同じで、多くの請求ソフトから「サービス提供証明書」として印刷できます。
作るときに確かめたいのは、ふだんの請求と同じところです。
- 被保険者番号・保険者番号が被保険者証と合っているか
- サービスコードと単位数、回数が実績と合っているか(サービスコード表の見方と単位数の確認手順)
- 地域区分の単価で金額を計算しているか(地域区分と単価の確認)
- 事業所の印や記名が、保険者の求める形になっているか
市区町村によって、決まった様式や、添付してほしい書類(ケアプランの写しなど)があることもあります。迷ったら、利用者さんの保険者に一度問い合わせて、メモに残しておくと次から楽になります。
利用者さんの申請を、どう支えるか
申請するのは利用者さん(またはご家族)です。でも、最初の説明がていねいだと、申請の迷いと、事業所への問い合わせがぐっと減ります。伝えることは、次の4つに絞れば十分です。
- 今回は、いったん全額のお支払いになること(理由は短く。「ケアプランの届出の前のご利用なので」「被保険者証にこの記載があるので」)
- 申請先(お住まいの市区町村の介護保険の窓口)
- 申請に持っていくもの(申請書、事業所の領収書、サービス提供証明書。ほかに本人確認書類や振込先の口座が分かるもの、印鑑などを求められることもあるので、保険者の案内で確認)
- 申請の期限(支払った日の翌日から2年で時効になります。「早めに出しておくと安心です」と添えて)
おすすめは、この4つをA4の紙1枚の「お手続きのご案内」にまとめておくこと。口頭だけだと、ご家族に伝わるうちに抜けてしまいます。紙を領収書・証明書と一緒にクリアファイルに入れてお渡しすれば、「何をどこに出せばいいか」が一目で分かります。
「いつ戻るの?」と聞かれたら、戻る時期は市区町村の審査しだいで、事業所からは確約できないことを、正直にお伝えしましょう。そのうえで「窓口で目安を聞いていただけますよ」と一言添えると、ご家族も動きやすくなります。
ご家族への伝え方のコツは、利用者さんのご家族への連絡、負担なく続けるコツや重要事項説明・契約の説明、伝わりやすくする工夫も参考になります。
影響:場面と書類が決まると、償還払いでも落ち着いて対応できる
利用者さんの負担を減らせることがあります。 認定前の利用でも、ケアプラン作成の届出を一言たしかめるだけで、償還払いそのものを避けられることがあります。全額をいったん用意するのは、ご家族にとって小さくない負担です。
請求の二重計上や漏れを防げます。 償還払いの方の分を、うっかり国保連に請求してしまうと、返戻や過誤の手間が増えます。受付で気づいて、請求ソフトにも印をつけておけば、月末にあわてずにすみます。
ご家族からの信頼につながります。 「何をどこに出せばいいか」が紙1枚で分かるだけで、手続きへの不安はずいぶん軽くなります。事務の一枚が、ご家族の安心を支えます。
明日やること(優先順位と代替)
- 受付で見る被保険者証の項目に、「支払方法変更の記載」を1行足す(受付手順のメモに書き足すだけで大丈夫です)
- 請求ソフトで「サービス提供証明書」がどこから印刷できるか、一度だけ確かめる(いざというときに探さずにすみます)
- 認定前の利用の相談が来たら、「ケアプラン作成の届出は出ていますか?」と聞くを、ケアマネさんとの連絡メモに書いておく
- 「お手続きのご案内」をA4・1枚で作っておく(申請先・持ち物・期限の3つを書く。今日は下書きだけでも十分です)
- 主な保険者の窓口の連絡先と、決まった様式の有無を一覧にしておく(次に聞かれたとき、その場で答えられます)
全部を今日やらなくて大丈夫です。1と2だけでも、次に償還払いの場面が来たとき、ずいぶん落ち着いて動けます。
確認チェックリスト(持ち歩き用・最小ライン)
- 受付で、被保険者証の「支払方法変更」の記載の有無を見ている
- 認定前の利用では、ケアプラン作成の届出が出ているかをケアマネさんに確かめている
- 暫定利用のとき、認定結果しだいで保険の対象外になりうることを伝えている
- 償還払いの方の分を、国保連に請求していない
- 全額の領収書に、提供年月・支払日・保険対象と対象外の内訳がある
- サービス提供証明書の番号・サービスコード・単位数・回数が実績と合っている
- 申請先・持ち物・期限(支払った日の翌日から2年)を、紙で渡している
- 払い戻しの時期を、事業所から確約していない
- 保険料の相談は、市区町村の窓口につないでいる
よければ、こちらも
- 似た手続きは 住宅改修費・福祉用具購入費の受領委任払い|手続きを一緒に整理、高額介護サービス費のしくみと、事務が押さえる点を一緒に整理 をどうぞ。
- 請求まわりは 介護の利用料請求書・領収書の基本、介護報酬請求 月次ミス防止チェックリスト が近いテーマです。
- 返戻が出てしまったときは 国保連の返戻はなぜ起きる?原因と対応手順を一緒に にまとめています。
償還払いは、特別にむずかしいものではありません。償還払いになる場面を知っておく。全額の領収書とサービス提供証明書を出す。申請先・持ち物・期限を紙1枚で伝える。この3つだけで、まれな場面でも落ち着いて進められます。今日は、受付メモに1行書き足すところまでで十分です。

「いったん全額で、いいんだっけ?」と立ち止まれたのは、利用者さんに余計な負担や遠回りをさせたくないと思っていたからです。
いったん全額を用意するのは、ご本人やご家族にとって、決して小さなことではありません。その方が迷わず申請して、きちんと払い戻しを受けられるように、紙1枚を添えてお渡しする。目立たないけれど、それは暮らしのお金の不安を、裏からそっと支える仕事です。今日書いた1行が、次にその場面が来たとき、きっとあなたを助けてくれます。