
口腔機能向上加算|Ⅰ・Ⅱの要件と記録の整え方を一緒に整理
「口腔機能向上加算、うちは要件そろっていますか」
管理者からそう聞かれて、返事に詰まったことはありませんか。歯科衛生士さんには来てもらっている。現場では口腔体操もやっている。記録もある。それなのに、「そろっています」と言い切るのがなぜか怖い。
その怖さの正体は、たぶん「何がそろっていれば要件を満たすのか」の輪郭がぼやけていることです。実施していないから不安なのではなく、実施していることと要件の対応が見えていないから不安になる。これは担当者の準備不足ではなく、要件が「人の配置」「計画」「実施と記録」「見直しの時期」と別々の場所に散らばっているせいです。
大丈夫です。この加算は、人・計画・記録 の3つに分けて並べ直すと、確認する場所がはっきりします。今日は、事務が押さえる最小ラインと、見直しの時期を追える一覧の形まで、一緒に整理していきましょう。
結論:口腔機能向上加算は、①人(言語聴覚士・歯科衛生士・看護職員のいずれかが配置されているか)→ ②計画(口腔機能改善管理指導計画があり、説明して同意をもらっているか)→ ③記録(実施の記録と、おおむね3か月ごとの評価が残っているか) の順に確認すると迷いません。(Ⅰ)と(Ⅱ)の分かれ目は作業量ではなく、LIFE(科学的介護情報システム)への情報提出とフィードバックの活用をしているかという点です。あわせて、口腔・栄養スクリーニング加算など隣の加算との重なりも見ておきます。単位数・算定回数の上限・対象となるサービス種別・併算定の可否は改定や自治体の解釈で動くため、最終的な判断は最新の単位数表と厚生労働省の解釈通知、指定権者(都道府県・市区町村)の案内でご確認ください(本記事は2026年9月時点の一般的な整理です)。
なぜ、ここでつまずきやすいのか
要件がそろっているか自信を持ちにくいのには、はっきりした理由があります。
- 確認する場所が4つに分かれている。人の配置は勤務形態一覧表、計画は利用者ファイル、実施は現場の記録、見直しの時期は誰の手元にもない——ということが起きます
- 実施するのは現場、算定するのは事務という分担のため、「やったこと」が請求の月までに事務へ届かないことがある
- 「おおむね3か月ごと」の見直しが、利用者ごとにバラバラのタイミングで回ってくるので、月をまたぐと追いきれなくなる
- 隣の加算(口腔・栄養スクリーニング加算など)との関係が絡むため、単独で見ていると判断がぶれる
どれも、注意力でどうにかする話ではありません。仕組みとして追いにくいだけです。順番に見ていきましょう。
その1:人(誰が関わっていれば算定できるのか)
まず確認するのは、専門の職種が配置されているかです。この加算では、次のいずれかの職種が1名以上関わっていることが土台になります。
- 言語聴覚士(ST)
- 歯科衛生士
- 看護職員(看護師・准看護師)
言語聴覚士(ST)とは、話すこと・聞くこと・食べ飲み込むこと(摂食嚥下)の困りごとを支援する国家資格の専門職です。介護の現場では、むせや飲み込みにくさへの対応で関わることが多い職種です。
ここで、事務としての確認どころが2つあります。
ひとつめは、その人の勤務実態が書類でたどれるかです。外部の歯科医院から歯科衛生士に来てもらっている場合、契約書や委託の書類、来所した日の記録がないと、あとから「関わっていた」ことを示せません。常勤の看護職員が担っている場合も、勤務形態一覧表と実施記録の日付が食い違っていないかは見ておきたいところです。
ふたつめは、実際に関わったのが誰か、記録に名前が残っているかです。「口腔ケアを実施した」とだけ書かれていて実施者が空欄、という記録は意外とよくあります。責める話ではなく、忙しい現場では自然に起きることです。だからこそ、記録の様式に実施者の欄をあらかじめ作っておくと、書き忘れ自体が起きにくくなります。
なお、この職種の人が「すべてを1人でやる」必要はありません。計画づくりや実施には、介護職員や生活相談員も関わります。専門職が中心にいて、チームで回している形が見えることが大事です。
その2:計画(口腔機能改善管理指導計画をどう整えるか)

次が口腔機能改善管理指導計画です。名前が長くて身構えますが、やることはシンプルです。
口腔機能改善管理指導計画とは、その利用者の口の状態について「今どうなっているか」「何を目指すか」「そのために何をするか」を書いた計画書のことです。ケアプランとは別に、この加算のために作ります。
含めておきたいのは、おおむね次の項目です。
- 現状:食事のときのむせ、食べこぼし、口の乾きや汚れ、入れ歯の具合など、いま見えていること
- 課題と目標:何を改善したいのか(例:「食事中のむせを減らす」)
- 具体的な内容:誰が、どのくらいの頻度で、何をするか(口腔清掃の支援、嚥下体操、食事形態の相談など)
- 作成日と作成に関わった職種
- 利用者・ご家族への説明日と、同意をもらった記録
事務としていちばん見ておきたいのは、最後の「説明と同意」です。ここは記録に残りにくく、あとから「口頭では説明したはずなんですが」となりやすい場所です。計画書の下に説明日と署名欄を最初から作っておくと、抜けにくくなります。
そしてこの計画は、関係する職種が共同で作るものです。ひとりで書いて回覧、でも形にはなりますが、「誰と誰が関わったか」が見えないと、あとから説明しづらくなります。計画書に関わった職種の名前を並べて書く欄を作っておくと、それだけで説明できる形になります。
その3:記録(実施と、おおむね3か月ごとの見直し)
計画ができたら、あとは実施して、記録して、区切りで見直すの繰り返しです。
実施の記録に残すもの
- 実施日
- 実施者(名前・職種)
- 実施した内容(計画のどの部分にあたるか)
- そのときの利用者の様子(短くて構いません)
見直しのタイミング
この加算では、おおむね3か月ごとに、口腔機能の状態を評価して計画を見直すことが求められます。改善したのか、変わらないのか、別の課題が出てきたのか。それを見て、計画を続けるか、内容を変えるか、いったん区切るかを決めます。
ここでいちばんの落とし穴が、3か月の起点が利用者ごとに違うことです。4月から始めた方、6月から始めた方、8月から始めた方が同じフロアにいる。そして請求の月末になって「あれ、この方は見直しの時期を過ぎている」と気づく——これは、記憶や勘で追おうとすると必ず起きます。
そこで、次の形の一覧を1枚だけ作っておくと安定します。
| 利用者 | 計画作成日 | 前回の評価月 | 次の評価予定月 | 区分 | 併算定している加算 |
|---|---|---|---|---|---|
| A様 | 2026年6月10日 | 2026年6月 | 2026年9月 | Ⅱ | なし |
| B様 | 2026年4月3日 | 2026年7月 | 2026年10月 | Ⅰ | なし |
| C様 | 2026年3月18日 | 2026年6月 | 2026年9月 | Ⅱ | 口腔・栄養スクリーニング加算 |
この表があれば、月初に「今月が“次の評価予定月”の人」を見るだけで済みます。A様とC様が当たるなら、現場へ「今月、この2名の評価をお願いします」と先に声をかけられる。事務が先回りできると、現場も慌てずにすみます。
算定できるかどうかを請求の段階でひっくり返すのが、いちばんつらい作業です。「実施してから請求で確かめる」ではなく「月初に予定を立てる」という向きに変えられると、月末の重さがはっきり変わります。
なお、算定できる回数には上限があり(原則として月あたりの回数が決まっています)、また「改善が見込まれる期間」という考え方も置かれています。漫然と続ける前提の加算ではない、という点は押さえておきたいところです。具体的な回数と期間の扱いは、サービス種別によって整理が分かれるため、最新の単位数表と自治体の案内でご確認ください。
Ⅰ・Ⅱの分かれ方と、隣の加算との関係
(Ⅰ)と(Ⅱ)の違いは、現場の作業量ではありません。分かれ目は、LIFE への情報提出とフィードバックの活用をしているかどうかです。
LIFE(科学的介護情報システム)とは、事業所が利用者の状態やケアの内容を国のシステムへ登録すると、分析結果が返ってくる仕組みのことです。返ってきた内容をケアの見直しに使うところまでが、ひとそろいとされています。
つまり、口腔機能向上加算(Ⅱ)を算定する場合は、口腔の情報をLIFEへ提出し、返ってきたフィードバックを計画の見直しに活かす、という流れが加わります。事務としては、提出した月の記録と、フィードバックを会議などで見た記録が残っているかが確認どころになります。LIFE全体の運用は科学的介護推進体制加算(LIFE)、まず運用でつまずかないための整理にまとめています。
もうひとつ見ておきたいのが、口腔・栄養スクリーニング加算との重なりです。ある利用者について口腔機能向上加算を算定していると、口腔の側はすでにこちらで手厚く見ている扱いになるため、スクリーニング加算の区分がⅠではなくⅡに寄る、という関係が生まれます。
ここも「覚える」より、利用者ごとに今月どの加算を算定しているかを一覧で見るほうが確実です。先ほどの表に「併算定している加算」の列を入れたのは、そのためです。細かい併算定の可否は改定のたびに整理が入るので、判断の場面では必ず最新の通知に当たってください。
影響:口の中の変化が、記録として残るようになる
この加算をきちんと回していくと、算定できるかどうか以上に効いてくることがあります。むせが増えた、食べこぼしが目立つようになった、入れ歯が合わなくなってきた——そうした小さな変化が、3か月に一度、必ず言葉になって記録に残るということです。
現場の方は、きっと日々気づいています。ただ、その気づきが会話の中だけで流れていくと、ご家族にも、ケアマネジャーにも、次の担当者にも渡りません。誤嚥性肺炎や食事量の低下は、たいてい小さなサインから始まります。この加算は、そのサインを外へ渡す仕組みでもあります。
そして、記録がそろっていれば、運営指導のときも「計画」「実施の記録」「評価と見直し」を順に示せます。要件や単位数が改定で動いても、変わった差分だけを追えばよくなるので、読み直しの負担も軽くなります。
明日やること(優先順位と代替)
- 口腔機能向上加算を算定している利用者を、名前だけ書き出してみる(請求ソフトの実績出力でも、手書きでも構いません)
- その方の口腔機能改善管理指導計画がファイルにあるか、有無に◯×を付ける
- 計画書に「説明日」と「同意の記録」があるか、1名分だけ見てみる(全員でなくて大丈夫です)
- 計画作成日から3か月後を計算し、「次の評価予定月」の列を埋める
- 今月が“次の評価予定月”に当たる方を拾い出し、現場へ評価の声かけをする
- 実施記録に実施者の名前が入っているか、直近1か月分をざっと見る
- 単位数・算定回数の上限・対象サービス種別・併算定の可否を、最新の単位数表と自治体の案内で確認する
全部を今日やらなくて構いません。1と2だけでも、来月の月末はずいぶん静かになります。
確認チェックリスト(持ち歩き用・最小ライン)
- 言語聴覚士・歯科衛生士・看護職員のいずれかが関わっていることが書類でたどれる
- 外部委託の場合、契約書や来所日の記録が残っている
- 利用者ごとに口腔機能改善管理指導計画がある
- 計画に、現状・課題と目標・具体的な内容・作成日が書かれている
- 計画の作成に関わった職種が記録に残っている
- 利用者・ご家族へ説明し、同意をもらった記録がある
- 実施記録に、実施日・実施者(名前と職種)・内容が残っている
- おおむね3か月ごとの評価と、計画の見直しの記録がある
- 利用者ごとに「計画作成日/次の評価予定月」を追える一覧がある
- (Ⅱ)を算定している場合、LIFEへの提出とフィードバック活用の記録がある
- 併算定している加算を確認し、隣の加算の区分と整合している
- 単位数・算定回数・対象サービス種別を最新の通知と自治体案内で確認した
よければ、こちらも
- 口腔・栄養まわりの隣の加算は 口腔・栄養スクリーニング加算|Ⅰ・Ⅱの違いと6か月管理を一緒に、栄養マネジメント強化加算の要件と記録の整え方を一緒に が続きになります。
- 計画を立てて記録し、見直していく流れは 個別機能訓練加算の要件と計画書、整える順番を一緒に、科学的介護推進体制加算(LIFE)、まず運用でつまずかないための整理 とも重なります。
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一度に全部そろえなくて大丈夫です。「関わっている専門職を書き出す」「計画の有無に◯×を付ける」「次の評価予定月を1行書く」。この順に置いていけば、口腔機能向上加算はちゃんと形になっていきます。今日は、算定している方の名前を書き出すところまでで十分です。
「そろっていますか」と聞かれて言葉に詰まったのは、いいかげんに仕事をしていたからではありません。きちんと確かめたい人だけが、あの場面で詰まります。 適当に「はい」と答えられなかったこと自体が、この事業所の誠実さです。
食事のときの小さなむせに、誰かが気づいて、それが計画になって、記録になって、次の人へ渡っていく。その道筋を静かに整えているから、介護の現場は今日も止まらずに動いています。
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