
身元引受人・連帯保証人の欄、役割を分けて整える手順を一緒に
契約の日、重要事項の説明をひと通り終えて、署名の欄まで進んだところで、ご家族がぽつりと言った。「この身元引受人の欄……書いてくれる人が、もういないんです」。息子さんは遠方で、ご兄弟はもう亡くなっている。ひな形にある欄だから埋めてもらうものだと思っていたけれど、埋まらなかったらどうするのか。そもそも、この欄は何のためにあるのか。
その場で言葉に詰まってしまった方、少なくないと思います。それは準備不足ではありません。身元引受人と連帯保証人の欄には、いくつもの役割がひとつに詰め込まれているので、分けて考える枠がないと誰でも詰まります。今日は、その枠を一緒に作っていきましょう。
結論:①身元引受人・連帯保証人に期待している役割を、「緊急連絡」「支払い」「引き取り」の3つに分けて書き出す → ②このうちお金の保証(連帯保証)を個人にお願いする場合は、契約書に「極度額(保証の上限額)」を書く(2020年4月施行の改正民法で、書かれていない個人の根保証は無効とされています) → ③頼める人がいない方を、それだけを理由にお断りしない運用と、代わりの手立てを法人として決めておく、の順で整えると、契約の日に手が止まる場面がぐっと減ります。なお、契約書の文言や個々の取り扱いは法人の方針・契約内容によって変わります。判断に迷うところは管理者や法人、必要に応じて弁護士などの専門職にご確認ください(本記事は2026年10月時点の一般的な整理です)。
なぜ、この欄で手が止まるのか
- 「身元引受人」は法律で決まった言葉ではない。事業所や施設が契約書の中で使っている呼び方で、何をお願いしているかは契約書ごとに違う
- ひとつの欄に、性格の違う役割がまとめて入っている。緊急時の連絡、利用料の保証、退所や亡くなられたときの引き取り。どれも大事ですが、重さがまったく違う
- 「身元引受人兼連帯保証人」のように、1人に全部をお願いする書式が多い。頼まれる側にとっては、何をどこまで背負うのかが見えにくい
- 頼れる親族がいない方が増えている。ひとり暮らしの方、ご家族が遠方の方、ご家族との関係が難しい方。「欄が埋まらない」は、珍しいことではなくなっています
- 民法のルールが2020年に変わったのに、契約書のひな形が以前のままになっていることがある
どれも、担当者の確認不足の問題ではありません。欄の中身を分けて見る枠が、まだ手元にないだけです。
その1:欄の中身を「3つの役割」に分ける
一番効くのは、これです。「身元引受人」をひとかたまりで考えない。

1. 緊急連絡の役割
体調が急に変わったとき、事故やけががあったとき、入院が必要になったとき。まず電話をかける相手です。ここは、お金の責任を負っていただかなくても、お願いできる役割です。ご家族が遠方でも、電話がつながれば十分に担えます。
2. 支払いの役割(連帯保証)
ご本人が利用料を払えなくなったときに、代わりに支払う役割です。法律上の「保証」にあたるのはここだけで、いちばん重い役割でもあります。後で説明する極度額のルールが関わるのも、この部分です。
3. 引き取りの役割
退所のときの荷物や私物の引き取り、亡くなられたときのご遺体やご遺品の引き取り、その後の手続きの相談。暮らしの区切りに立ち会っていただく役割です。
3つに分けてしまえば、「1人に全部お願いできないなら、欄は空白」ではなく、「緊急連絡は遠方の息子さんに、引き取りは近くの姪御さんに相談、支払いは口座振替で」のように、できる方にできる部分をお願いする形が見えてきます。
ここでひとつ、添えておきたいことがあります。身元引受人だからといって、医療行為への同意を代わりに決められるわけではありません。手術や延命の判断は、ご本人の意思を中心に、医療機関やケアマネも交えて話し合っていく領域です。「身元引受人なのだから決めてください」とお願いしないことが、ご家族を守ることにもなります。
その2:連帯保証をお願いするなら「極度額」を書く
ここが今日の中心です。
2020年4月1日に施行された改正民法で、個人が「根保証」をする場合、保証の上限額(極度額)を書面などで定めておかないと、その保証契約は無効になるとされました(民法465条の2)。
根保証というのは、これから毎月発生する、金額のまだ決まっていない債務をまとめて保証する形のことです。介護サービスの利用料は、利用が続くかぎり毎月発生します。ですから、個人の方に利用料の連帯保証をお願いする契約は、この根保証にあたることが多いと考えられています。
事務が確かめたいのは、この3点です。
- 契約書に、極度額の欄と記載があるか。「連帯保証人は、本契約から生じる一切の債務を保証する」とだけ書かれていて、上限額がどこにもない書式は、見直しの対象です
- 極度額は金額で、はっきり書かれているか。「利用料の◯か月分」のような書き方にするか、具体的な金額にするかは法人の判断ですが、保証人になる方が上限を読み取れる書き方にしておく
- 2020年4月以降に結んだ契約・作り直した契約で、極度額の記載が抜けていないか。それより前に結んだ契約は、原則として以前のルールで扱われますが、契約を作り直すときは新しいルールで整えます
金額をいくらにするかは、法人として決める事柄です。高すぎると保証をお願いされる側の負担が大きくなり、引き受け手が見つかりにくくなります。ひな形の改訂は、管理者や法人、顧問の弁護士などと相談しながら進めてください。事務担当として大事なのは、「この書式、極度額の欄がないかもしれません」と気づいて声を上げることです。それだけで、十分に役目を果たしています。
あわせて知っておきたいこと
- 保証人になった方(ご本人から頼まれて保証人になった方)から求められたときは、未払いがあるかどうかなど、利用料の支払い状況を伝えることが民法で定められています(民法458条の2)。「保証人の方から問い合わせがあったら、ここを確認して答える」と手順にしておくと、慌てずに済みます
- 個人の根保証は、ご本人や保証人が亡くなったときに、保証の対象となる金額がその時点で確定するとされています(民法465条の4)。亡くなられたあとの精算については利用者が亡くなられたときの事務手続き、順番に確認するが続きになります
その3:頼める人がいない方を、それだけでお断りしない
契約の日に「書ける人がいない」と言われたとき、いちばん大事なのは、ここです。
介護保険の運営基準では、正当な理由なくサービスの提供を拒んではならないとされています。そして国(厚生労働省)は2018年の通知で、身元保証人等がいないことだけを理由に入所やサービスの提供を拒むことは、この「正当な理由」にあたらないという考え方を示しています。
とはいえ、事業所として不安が残るのも自然なことです。だからこそ、役割ごとに代わりの手立てを用意しておくと、「お断りするか、無理に誰かの名前を書いてもらうか」の二択から抜け出せます。
| 役割 | 頼める人がいないときの手立ての例 |
|---|---|
| 緊急連絡 | 遠方のご家族・ご親族に連絡先としてだけお願いする/担当のケアマネや地域包括支援センターと連絡の流れを決めておく |
| 支払い | 口座振替にして支払いの流れを安定させる/預り金の規程にもとづいた管理を検討する/社会福祉協議会の日常生活自立支援事業の利用を相談する |
| 引き取り | 契約時に、退所時・亡くなられたときの私物の扱いと連絡先をご本人と一緒に決めて書面に残す/判断が難しい方は成年後見制度の利用を地域包括支援センターに相談する |
判断能力が低下している方で、身近なご親族がいない場合には、市町村長が家庭裁判所に後見開始の審判を申し立てることができるとされています(老人福祉法第32条)。後見人がついた場合の窓口の分け方は成年後見人とキーパーソン|誰に何を確認するかを一緒に整理にまとめています。なお、後見人等がご本人の連帯保証人になることは、立場上難しいと考えられています。
また、身元保証や亡くなったあとの事務を有料で引き受ける民間の事業者もあります。国は2024年に「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」を示しています。ご本人やご家族から相談があったときは、事業所が特定の事業者をすすめるのではなく、ケアマネや地域包括支援センターと一緒に、契約内容を確かめながら選べるよう支える立ち位置が落ち着きます。
影響:役割が分かれると、契約の日も、その後も楽になる
契約の日に、沈黙が生まれにくくなります。 「この欄は、3つの役割のうち、どれをお願いできそうですか」と聞けるようになると、「書ける人がいない」は話の終わりではなく、相談の始まりに変わります。
ご家族の気持ちが軽くなります。 「全部を背負わなければいけない」と思っていたご家族が、「連絡だけなら引き受けられる」と言えるようになる。それだけで、ご本人の周りに関わってくれる人が一人増えます。
いざというときの請求やトラブルが減ります。 極度額の書かれた保証契約になっていれば、保証人の方にとっても事業所にとっても、どこまでが約束なのかがはっきりします。滞納が起きたときの進め方は介護の利用料が滞納に|責めずに進める相談と手順にまとめています。
運営指導のときに、説明できます。 契約書の書式や、身元引受人がいない方への対応を聞かれたときに、「役割ごとにこう分けて、頼める方がいない場合はこうしています」と示せる。それは書類の整い方という以上に、誰も取り残さない受け入れをしている証になります。
明日やること(優先順位と代替)
- いま使っている契約書のひな形を1部出して、身元引受人・連帯保証人の欄を読んでみる(5分で終わります。何をお願いしている欄なのか、言葉で書き出せるかどうかを見るだけで十分です)
- その欄に「極度額」の記載があるか確認する(なければ、付箋を貼って管理者に「ここ、確認してもらえますか」と渡すだけで大丈夫です)
- 欄の中身を「緊急連絡」「支払い」「引き取り」の3つに分けて、メモに書き出してみる(1枚のメモで足ります。どの役割を誰にお願いしているかが、自然と見えてきます)
- 身元引受人がいない方の受け入れについて、法人の方針が文書になっているか管理者に聞いてみる(まだなければ、会議の議題に上げること自体が前進です)
- 保証人の方から支払い状況の問い合わせがあったときの答え方を、一行で手順にしておく
- 地域包括支援センターや社会福祉協議会の連絡先を、契約ファイルの表紙裏に貼っておく(相談先がすぐ見つかるだけで、契約の日の安心感が違います)
全部を今日やらなくて大丈夫です。1と2だけでも、次に「書ける人がいないんです」と言われたときの入口ができます。
確認チェックリスト(持ち歩き用・最小ライン)
- 契約書の身元引受人・連帯保証人の欄で、何をお願いしているかを言葉で説明できる
- 「緊急連絡」「支払い」「引き取り」の役割を分けて考えている
- 個人に連帯保証をお願いする書式に、極度額(保証の上限額)が書かれている
- 極度額は、保証人になる方が読んで上限を分かる書き方になっている
- 2020年4月以降に結んだ・作り直した契約で、極度額の記載漏れがないか確かめた
- 身元引受人に医療行為の同意を求めない、という前提を職員が共有している
- 身元引受人等がいないことだけを理由にお断りしない、という方針が法人で共有されている
- 頼める人がいない方について、役割ごとの代わりの手立てが決まっている
- 退所時・亡くなられたときの私物の扱いを、契約時にご本人と確認して残している
- 保証人から支払い状況を聞かれたときの対応手順がある
- 迷ったときの相談先(管理者・法人・地域包括支援センター・専門職)が書き出されている
よければ、こちらも
- 契約まわりを固めるなら 重要事項説明書の記載項目、見直しのコツを一緒に整理する、契約時の説明、ご本人と家族に伝わる工夫を一緒に、利用開始時にそろえる書類、受付の順番を一緒に整理する をどうぞ。
- 窓口の整理は 成年後見人とキーパーソン|誰に何を確認するかを一緒に整理、介護の個人情報、同意と取り扱いの基本を一緒に整理する が近いテーマです。
- お金のやりとりは 利用者の預り金・金銭管理|規程と出納記録の残し方を一緒に整理、介護の利用料が滞納に|責めずに進める相談と手順 にまとめています。
一度に全部そろえなくて大丈夫です。欄の中身を3つの役割に分ける。連帯保証には極度額を書く。頼める人がいない方を、それだけでお断りしない。この3つだけで、契約の日のあの沈黙は、ずいぶん短くなります。今日は、ひな形を1部出して読むところまでで十分です。

「書ける人がいないんです」と言われて言葉に詰まったのは、その方を何とか受け入れたいと思っていたからです。形式どおりに「では、お引き受けできません」と返さなかった、その一瞬のためらいは、ちゃんと人を見ていた証です。
頼れる人が少ない方の暮らしを、書類の上でどう支えるか。それは、目立たないけれど、その方の「ここで暮らしていい」を守る仕事です。今日、ひな形の欄を一度読み直したなら、それはもう、次に来る誰かの居場所を用意し始めています。