
介護請求の引き継ぎ手順書の作り方|休み・異動でも困らない形に
月末の夕方、ふと思う。「もし来月の1日に自分が熱を出したら、今月の請求、誰が出せるんだろう」。あるいは、産休や異動が決まって、引き継ぎの日が近づいている。伝えたいことはたくさんあるのに、いざ書こうとすると、どこから手をつけていいか分からない。
請求業務は、毎月同じことのくり返しに見えて、実は「この保険者はこう」「この利用者さんは毎月ここを確認」といった小さな判断の積み重ねです。だから一人の頭の中に入りやすいのは、担当者がしっかり回してきた証拠でもあります。そして安心してほしいのは、引き継ぎ手順書は、一度に完璧なものを作らなくていいということ。今月の請求を回しながら、少しずつ書き足していけば十分です。
結論:請求業務の引き継ぎ手順書は、①カレンダー(いつ)②手順(どの画面で何を)③判断メモ(迷ったときの決まりごと)④連絡先(誰に聞くか・どこにあるか)の4つに分けて作ると、書きやすく、読む人も迷いません。作り方のコツは、次の月の請求を実際に回しながら、その場で1行ずつメモすること。パスワードなどの秘密情報は手順書に書かず、置き場所だけを書きます。本記事は2026年10月時点の一般的な整理です。請求ソフトや保険者ごとの決まりは事業所によって違うため、自分の事業所の実際の画面・通知に合わせて書いてください。
何が起きているか:請求業務は「一人の頭の中」に入りやすい
請求業務が属人化しやすいのには、ちゃんと理由があります。
- 毎月の締め切りが短く、手を止めて書く時間がない。国保連への請求は、サービスを提供した翌月の1日から10日までが受付期間です。この10日間は、目の前の作業だけで手いっぱいになります
- 判断の多くが「例外対応」。月途中の入院、区分変更、保険者ごとのローカルルール。毎月は出てこないので、手順として書く機会がありません
- 画面やシステムが複数ある。請求ソフト、電子請求受付システム、記録ソフト、表計算のメモ。どこで何をしているかは、本人にしか見えていません
どれも、担当者が手を抜いているからではありません。書き残す時間と型がなかっただけです。型さえ決まれば、書くことはそれほど多くありません。
引き継ぎ手順書は4つの部品に分けて作る

引き継ぎ手順書を「1冊のマニュアル」として作ろうとすると、手が止まります。そこで、中身を次の4つの部品に分けて考えます。どの部品から作ってもかまいません。
① カレンダー:いつ、何をするか
月の流れを、日付と作業の一覧にしたものです。いちばん先に作ると、全体像が伝わりやすくなります。
| 時期 | 作業 | メモ |
|---|---|---|
| 月末 | サービス提供票(実績)の回収 | ケアマネさんごとの届き方を④に |
| 翌月1日〜5日 | 実績入力・給付管理票の確認 | 居宅介護支援なら給付管理票も |
| 翌月5日〜9日 | 請求データの作成・チェック・送信 | 10日が締め切り。余裕を1日もつ |
| 送信後 | 受付結果・エラーの確認 | エラーの読み方は③に |
| 翌月中 | 返戻・審査結果の確認、入金の消込 | 通知の届き方は事業所で確認 |
| 随時 | 利用者負担の請求書・領収書の発行 | 口座振替の締め日を書いておく |
日付は、自分の事業所で実際にやっている日に書きかえてください。月の流れの組み立て方は、月末月初の請求業務スケジュールの組み方を一緒に整理にまとめています。
② 手順:どの画面で、何を押すか
カレンダーの作業ひとつずつについて、「どのソフトの、どのメニューで、何をするか」を書きます。ここで大事なのは、読む人が画面を開きながら、上から順にたどれること。
書き方を比べてみましょう。
- 書きがちな例:「請求データを作って送信する」
- 引き継げる例:「請求ソフトの『請求』メニュー →『請求データ作成』で、対象年月を前月にして作成 → 作成後に出る『チェック結果』でエラー0件を確認 → 電子請求受付システムから送信」
画面の名前は、実際の画面に出ている言葉をそのまま使います。言いかえると、読む人が画面のどこを見ればいいか分からなくなるからです。画面の写し(スクリーンショット)を1枚貼るだけでも、ずいぶん伝わりやすくなります。ただし、利用者さんの氏名や番号が写る画面は、ぼかしてから貼りましょう。
③ 判断メモ:迷ったときの決まりごと
引き継ぎでいちばん抜けやすいのが、ここです。「毎月はないけれど、出てきたら迷うこと」を、出てきた順に書きためていきます。
- 月途中の入院・退院・区分変更があったときの扱い(要介護度が月の途中で変わったときの請求)
- 保険者ごとの決まりごと(届出のしかた、問い合わせ先、独自の様式)。保険者ごとの違いの調べ方と管理の一覧があれば、その置き場所を書くだけで済みます
- 送信後のエラーの読み方と、よく出るものへの直し方(国保連の伝送エラーコード、あわてず読み解く手順)
- 返戻が来たときの確認の順番と、月遅れ請求に回す判断
- 「これは自分で決めず、管理者に相談する」ことの線引き
書き方のコツは、「〇〇のときは、△△する。理由は□□」と、理由まで1行に入れること。理由が書いてあると、少し違う場面が来ても、読む人が自分で考えられます。
④ 連絡先:誰に聞くか、どこにあるか
最後は、困ったときに頼れる先と、物の置き場所の一覧です。
- 国保連の問い合わせ窓口、主な保険者の介護保険の担当窓口
- 請求ソフトのサポート窓口と、契約者番号などの確認場所
- ケアマネさんごとの、提供票(実績)のやりとりの方法
- 紙の書類(提供票の控え、返戻の通知など)を綴じているファイルの場所
- 社内で相談できる人(管理者、以前の担当者)
ここで気をつけたいのが、パスワードや電子証明書のパスワードは、手順書に書かないこと。手順書は何人もが見るものです。書くのは「誰が管理していて、どこにしまってあるか」まで。秘密情報そのものは、事業所の決まりにそって、鍵のかかる場所や管理者のもとで別に保管します。ログインのIDや電子証明書の更新時期もあわせて確かめておくと、いざというときに「入れない」で止まらずにすみます。
具体例:次の月の請求を「回しながら書く」
いちばん続けやすいのは、次の月の請求を、手順書を書きながら回すやり方です。
たとえば、こんなふうに進めます。
- 月末に、①カレンダーの表だけを作っておく(15分ほど)
- 翌月1日から請求作業をしながら、画面を進めるたびに②手順に1行ずつ書く
- 途中で「あ、ここはいつも迷う」と思ったら、その場で③判断メモに付せん1枚分だけ書く
- 送信が終わったら、その月に連絡した先を④連絡先に書き足す
- 次の月は、別の人に手順書を読みながら操作してもらい、つまずいたところを直す
5番目がとても大事です。書いた本人には当たり前すぎて、抜けている行が見えません。読む人が迷った場所=書き足す場所です。休みや異動が決まっているなら、引き継ぐ相手と1か月だけ一緒に回せると、いちばん安心です。
影響:手順書があると、請求が「事業所の仕事」になる
担当者が休めるようになります。 「自分がいないと請求が止まる」という気持ちは、思っている以上に重いものです。手順書があるだけで、体調が悪い日に無理をして出勤しなくてすみます。
請求のミスに気づきやすくなります。 手順を書き出すと、「ここ、毎回なんとなく見ていたな」という確認のあいまいさが見えてきます。月次ミス防止チェックリストと並べて使えば、確認の抜けを減らせます。
引き継がれた人の不安が軽くなります。 初めて請求を任される人にとって、10日という締め切りは大きなプレッシャーです。「ここを見れば大丈夫」という1冊があるだけで、落ち着いて作業に向き合えます。
明日やること(優先順位と代替)
- ①カレンダーの表を作る(今月の流れを思い出しながら、日付と作業を並べるだけ。15分で大丈夫です)
- パスワード・電子証明書の管理者と置き場所を確かめる(書くのは置き場所まで。秘密情報は手順書に書かない)
- 今月いちばん迷ったことを1つ、③判断メモに書く(「〇〇のときは△△する。理由は□□」の1行で)
- 次の請求作業から、画面を進めるたびに②手順を1行ずつ書く(時間がとれない月は、送信の部分だけでもかまいません)
- 書いた手順書を、別の人に読んでもらう(つまずいたところに印をつけてもらい、そこだけ直す)
全部を今日やらなくて大丈夫です。1と2だけでも、もしものときに「何から始めればいいか」は伝わります。
確認チェックリスト(持ち歩き用・最小ライン)
- 月の請求の流れが、日付と作業の一覧(カレンダー)になっている
- 請求データの作成から送信までが、実際の画面の言葉で書かれている
- 送信後の受付結果・エラーの確認のしかたが書かれている
- 月途中の変更や返戻など、迷いやすい場面の決まりごとが理由つきで書かれている
- 保険者ごとの決まりごとの一覧の置き場所が書かれている
- 国保連・保険者・請求ソフトの問い合わせ先が書かれている
- パスワードは手順書に書かず、管理者と置き場所だけを書いている
- 画面の写しに、利用者さんの氏名や番号が写っていない
- 別の人が手順書を読みながら、一度は操作してみている
よければ、こちらも
- 月の流れは 月末月初の請求業務スケジュールの組み方を一緒に整理、提出前の確認は 介護報酬請求の月次ミスを防ぐ、提出前チェックリスト をどうぞ。
- 送信後に困ったときは 国保連の伝送エラーコード、あわてず読み解く手順を一緒に、国保連の返戻はなぜ起きる?原因と対応手順を一緒に にまとめています。
- 請求のあとは 介護報酬の入金消込|未収金を残さない月次の流れを一緒に整理、ソフトまわりは 介護請求ソフトのマスタ更新、慌てない確認手順を一緒に整理 が近いテーマです。
- 職員の入れ替わりの事務は 介護職員の入職・退職手続き|もれなく回す事務チェックリスト も参考になります。
- 介護報酬のおおよその金額を確かめたいときは、介護報酬の概算ツールも使えます。
引き継ぎ手順書は、カレンダー・手順・判断メモ・連絡先の4つに分けて、次の請求を回しながら1行ずつ書けば十分です。最初から完璧でなくていい。読む人が迷ったところを直していけば、手順書は月ごとに育っていきます。今日は、カレンダーの表を1枚作るところまでで十分です。

「自分がいないと、請求が止まってしまう」。そう感じてきたのは、毎月の請求を、誰にも見えないところでまじめに支えてきたからです。
手順書を書くことは、自分の仕事を手放すことではありません。あなたが積み重ねてきた判断を、事業所の財産として残すことです。そしてそれは、次にこの仕事を担う人を、ひとりにしないための準備でもあります。今日書いた1行が、いつか誰かの、そしてあなた自身の休める日を支えてくれます。